緋の希望絵画 | ナノ

▽ どこでも転べる足・4



「……か、彼女……江ノ島さん、無事だよね!?死んでないよね!?」
「いやいや、だから言ったじゃん。外に出したって」
「な、なんで……外に……?」
「邪魔だからだよ、今の展開には。誰も死なないコロシアイ学園生活なんてどこに需要があるってのさ!」

モノクマの赤い目が私を捉える。
今の展開―――誰も死んでいない状態を作った、私へと。

「戸叶さんには、とびきりの絶望を味わってもらわなきゃならないね!」

江ノ島さんが落ちた穴が、再び床に戻った。
何事もなかったように、床があるだけ。

「楽しみにしてて……戸叶さんにぴったりの“動機”を今から用意してあげる!次の“動機”が出来るまで、せいぜい舞園さんを非難するんだね!」

こうして、モノクマは去っていった。
混乱した状況と、困惑する私と。

15人になった私たちを残して。

「……えーと、これは、まず何から片付けるべきなんでしょう?」

山田くんがぽつりと漏らす。

何から片付ける……。

さやかちゃんのこと?
学級裁判のこと?
いなくなった江ノ島さんのこと?

……学級裁判は、誰も死んでないんだ。
殺人だって起きていないんだから、今は、関係ない。

「江ノ島さんのことはどうでもいいのではありませんか?」
「なっ……!」
「生きていようが死んでいようが、彼女は校則違反を犯した。ならば、今のはその責任をとったのです。捨て置いて構わないでしょう」
「じゃ、じゃあ……」

みんなの視線がさやかちゃんへ向く。

「……ちゃんと、話してくれるのかしら?」
「……はい」

さやかちゃんは、強い顔をしていた。
でもそれは虚勢だとすぐに分かる。身体は正直だ。震えている。

「苗木くん。ちゃんとお話したいんです。聞いてくれますか?」
「…………」

苗木くんは俊巡したようだったが、頷く。

「……俺は部屋に戻る。そんな加害者紛いの女の言い訳など耳に入れたくない」
「あ、あたしも戻るわ……あ、あんたなんかに、殺されたくないもの……!」

十神白夜と腐川さんは体育館を早々と去っていく。

「さやかちゃん……」
「大丈夫ですよ、流火ちゃん。私は大丈夫」

震えているけど、色に曇りはない。
なら、大丈夫。

「全て、昨日のことお話しします。聞いてくださる方は、教室の方にいらしてください」

さやかちゃんが、踵を返して体育館を出ていく。
それを慌てて桑田くんが追いかけた。
桑田くんは体育館を出る寸前、私の頭をぽんっと叩いて、そるが「任せろ」と言っているようだった。
……桑田くんって、なんだかんだ面倒見がいい人なのかもしれない。

「……流火。俺らはどうする」
「……そうだね。さやかちゃんがもう大丈夫っていうのは分かってるから……」

みんなは、さやかちゃんの話を聞くためだったりとか、部屋に戻ったりだとか、どちらでもなく何となく出ていったりだとかで、もういない。
体育館に今残ってるのは私と大和田くんだけだった。

「……」

私は体育館の床を見る。

「江ノ島さんでも、捜そうかな」
「はあ?んなの、見つかるかもわかんねーぞッ!?」
「いいよ。でも、捜す。捜すったら、捜す」

なんでもいいから、動きたかった。

『戸叶さんにぴったりの“動機”を今から用意してあげる!』

その言葉から、逃げたいと思った。

「大和田くんは?部屋に戻って寝る?」
「お前に付き合うに決まってんだろ」
「ええー?見つかるかも分からないのにー?」
「いい。それでも……付き合う。手伝うっつったら手伝う」
「……うん。じゃあ、手伝って」

私たちも、体育館を出た。
体育館には、もうなにもない。

「ところでよ、戸叶」
「はいはい」
「お前、まだやってんのか。自傷ってやつ」
「んー、たまに。ほんとたまーにやっちゃうかな……」
「……」

大和田くんが笑う。
ただ、引きつった笑い方で、不気味だ。
怒ってるってすぐに分かる。

「おっ……まえ、は……もっと自分の体を大事にしろっていつも言ってんだろーがッ!」

拳骨が落とされる。
濁った音がする。

「痛いってば!体を大事にしろって言っておいて殴るとか、矛盾してる!」
「当然の報いだろーが」
「もう大和田くん嫌い!」

私は笑ってみたけど、不安は、消えない。
消えるはずがなかった。










……………………………………。

江ノ島盾子。


生存。

不明。

……………………………………。

prev / next

[ back to top ]


×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -