▽ どこでも転べる足・3
「要は、外の世界でいう裁判員制度ってやつだよ!ただし判断は慎重にね!オマエラの命がかかってるんだから!」
「ちょ……ちょっと待ちなさいよ!」
完全にモノクマのペースだった空気の中、江ノ島さんが怒声でもぶつけるかのように、モノクマに叫んだ。
「アンタの言ってること……無茶苦茶じゃない!」
「んぁ……?」
「何が……学級裁判よッ!あたし、そんなのに参加するのイヤだからね!!」
「なんとっ!学級裁判に参加しないですと!そんなこと言う子には罰が下るよ!」
「……は?罰?」
「暗くてコワーイ牢屋に閉じ込めちゃったり……するかもね?」
「うっさい!そんなの……あたしには関係ない!!」
この場にいる半数の人間が江ノ島さんのことを沈めようとした。
だけど、江ノ島さんは誰の声にも耳を持たない。
「目の前の圧倒的な悪の迫力に、正直ブルッてるぜ。だ、だけどなぁ……ボクはそんな悪に屈する気はない。最後まで戦い抜くのがモノクマ流よ……どうしてもと言うのなら、ボクを倒してからにしろーッ!」
モノクマは、テトテトと突進してきた。
だけど江ノ島さんは、それを簡単に踏みつける。
モノクマの顔に、思いきり。
「ぎゅむ……!」
「はい。これで満足?」
「そっちこそ」
「は?」
―――流火さん。
……あれ?
何だろ……なんか、おかしい……。
「『学園長ことモノクマへの暴力を禁ずる』……校則違反だね」
―――ごめんなさい。許してね。
「召喚魔法を発動する。助けて〜!グングニルの槍!」
―――ちょっと考えてみる。私が、どちら に転べばいいのか……。
ああ、違うよ。
江ノ島さん。
これは、違う。
違う。
江ノ島さん、違う。
「―――さんッ!」
風が切って、一瞬。
「……ッ!」
彼女は、モノクマから身を引いた。
彼女が先ほどいた場所に、無数の槍が突き立てられる。
彼女が引かなければ、槍は彼女の身を貫いていただろう。
「…………なに?なんて?」
私はうまく状況を飲み込めなかった。
みんなもそう。
「何なのだ……今の動きは……!」
ただ、大神さんだけは彼女に目を向けていた。
私にはよく分からないけど、彼女の避け方は何か特別だったのかもしれない。
「……どうして?」
彼女は、信じられないものを見る目でモノクマを見た。
その声は、震えていた。
「今の、殺そうとしたの?どうして?何で?牢屋に閉じ込めるんじゃなかったの?」
「……気が変わったの」
モノクマが再度私を見た。明確な殺気を孕ませながら。
「……やっぱり、邪魔だね。戸叶さん……」
殺されるかもしれないと思った。
「ふんっ。誰も死なないコロシアイ学園生活なんてどこに需要があるってのさ!こうなったら……後々、大きな絶望に落としてやるんだから!」
うぷぷぷ。
そんなモノクマの笑い声が耳に張り付く。
「江ノ島さんは校則違反を起こしたんだよ。どうなろうとそれは彼女の責任。だから殺したって構わないでしょ?……でも、ボクって頭いいクマだからさ!いいこと考えちゃった!」
モノクマがスイッチをどこかから出した。
「仕方ないから……江ノ島さんは脱落者として外に出しちゃうよ!」
「……えっ……?」
スイッチが押される。
体育館の床が―――彼女が立っている床の部分が開いた。
彼女が、暗闇に落ちる。
悲鳴すらも聞こえず。
一秒も経たず。
彼女は奈落の底へと消えた。
「……な、なに……!?」
「江ノ島くん……!?」
「お……おちた……」
誰の目にも明らかだった。
この場から、彼女が消えたということが。
体育館に現れた落とし穴に落とされたことが。
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