緋の希望絵画 | ナノ

▽ どこでも転べる足・1



朝食会を終えた私たちは、モノクマに指示されたように体育館へ向かった。
緊急の集会だというヤツらしいが……何度でも言ってやる。嫌な予感しかしない。

「あっ、さやかちゃん。苗木くんにちゃんと謝れた?苗木くん、何て言ってた?」

不安をまぎらわすように、私は体育館に向かう途中さやかちゃんにそう言った。
さやかちゃんの表情は一気に曇る。

「実は、まだ……」
「えっ?言えてないの?」
「話そうと思ったら、石丸くんが来てしまって……その……」
「言いづらくなっちゃったんだ」
「でも……ちゃんと話しますよ!この集会が終わったら、すぐに……!」
「……うん」

さやかちゃんのキレイな色に安堵しながら、私は体育館に入った。
また“動機”とか……そういうことするのかな。
みんなの顔も、一様に暗い表情を浮かべていた。
やがて全員が揃い、あの憎たらしい声が聞こえてきた。

「みんなちゃんと集まった〜?エライね〜!」

気の抜けた効果音と共に、モノクマが現れる。

「ちゃんと16人いますね!誰も死んでないなんて……せっかくボクが手の込んだ動機を用意してあげたのに誰も死んでないとか……テンション下がるわぁ。ホンット空気が読めないよねぇ?」

モノクマが私の方を見る。
うっすらと殺気すら感じた。
モノクマの、その向こう側から感じた殺気に怖くなって、私は大和田くんの背後に隠れた。

「ボクらは仲間を殺したりなんかしない……お前が何を言ったってムダだぞ!」
「うぷぷ……モブキャラ顔のクセにでしゃばるね、苗木クン」

苗木くんが絶句する。
意外と、気にしていたのかも……。

「本当に幸せなやつらだよ、オマエラは」

モノクマはさらりと。軽く。まるで朝の挨拶でもするかのように。

「実はオマエラが知らないだけで、殺人未遂は起きてるんだよ!?」

そんな発言を、私たちに落とした。

場の空気が一気に凍りついた。

さやかちゃんが、自分の肩を抱いて震えるのが分かる。

「お前……そんなことを教えるためにオレたちを呼んだのか!?」
「そんなことだなんて……殺人未遂だって重要ですよ〜?」

桑田くんがモノクマを睨む。
さやかちゃんを守るため為だろう。

「……フン。だろうな」
「ああっ?」

十神白夜の小馬鹿にしたような笑いに、大和田くんが反応する。
大和田くんには目もくれず、十神白夜の視線は私の左手に注がれていた。

「戸叶の左手に巻かれた包帯……ずっと気になっていた」
「ま、まさか……誰かが戸叶流火殿を殺害しようとして……!?」
「それが何故か戸叶は左手の怪我のみで済み、生きている。殺人未遂……結局、誰かは殺人を起こそうとした訳だ」

私は右手で左手を覆った。
これで全部隠せる訳じゃないし、逆に目立つけど……これはほとんど無意識にやってしまっていた。
それよりも、どうするべきなのかを考えた。

「さてさて、戸叶さんにこんなケガをさせたのは一体誰なんでしょうねぇ?」

これは、『舞園さやかの殺人未遂』を暴露するための緊急集会。

「だ、誰なんだ!?戸叶くんにケガをさせたという者は!?正直に挙手したまえ!」
「あ、挙げるわけがないじゃない……う、裏切り者として晒されるのがオチよ……!」

私たちの疑心を高めるための集会。
それが新たな殺人に繋がるかもしれない。

私は、どうすればいい?
どうすれば、さやかちゃんを守れる?

考えて、考えて……。

「……ハハッ……アハハハハハッ!」

私は―――笑った。

「えっ、戸叶ちゃん……!?ど、どうしたの……!?」

みんなが変なものを見るような目で私を見た。
急に笑い出したのだから、おかしいと思うのは当然だ。

「このケガが、殺人未遂のケガ?面白いことを言うね、君は」

私はモノクマを睨む。
怖いけど、震えるな。
泣くなら、後で。
今は、さやかちゃんを庇わなきゃ。

「これ、私が自分で刺したんだよ」
「……ちょいちょい戸叶さん?そんなウソすぐにバレるってば」
「本当だってば。私、自傷癖持ちだもの。中学の時とか、毎日やってたよ。あっ、言っとくけど危なくないから。私は危ない人じゃないから。自傷行為っていうのは一種の芸術だからね?私は超高校級の画家なんだから、それぐらいやったって普通だよね……?」

……さすがに苦しい、かな。

「では、殺人未遂が起こったのはモノクマの嘘……ということでよろしいのですね?」
「うん、それでいい」

信じてくれてるかは分かんない……けど、なんとかさやかちゃんが殺人を行おうとしたことだけは伏せないと。
また、取り乱して、黒く染まってしまうかもしれないから……。
裏切り者として非難されるのを、防いでたげないと……。

「あのさぁ、戸叶さん?本当に空気を読んでくれないかな?こんなんじゃコロシアイ学園生活、盛り上がんないでしょうが!」

ガオーとモノクマが吠える。
ちっとも怖くはないが。
十神白夜が盛大なため息をついた。

「それで、誰なんだ。戸叶を刺した人間というのは」
「ちょ……だから私がやったって言ってんじゃん!自分でやったの!誰も殺人なんてやってない!」
「黙れ。貴様の虚言など聞いていない」

……本当に嫌なヤツだ。
殺人なんて起きていないのだから、それでいいじゃないか。
それでいいのに、何で知らなくていいことまで知りたがるんだ。

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