緋の希望絵画 | ナノ

▽ スリーストライクつまりアウト・2




それからちょっとして……。

「桑田くん!苗木くん!ちょっとこれだけ味見して!」

リゾットを一人分だけ作った私は食堂に戻ってきた。
食堂には新たに石丸くんが加わっている。

「戸叶くん、おはよう!」
「わっ……石丸くん……お、おはよう」
「今日は君が朝食を作るのだな!これについてもやはり当番を決めた方がいいと思うのだが……どう思う!?」

朝から元気だ。石丸くん。
……よし、だんだん耐性ついてきたぞ、石丸くんの声量。まだ、苦手だけど……。

「んなメンドクセェこといいって、全員揃ってからとかで!今は戸叶ちゃんの料理楽しみすぎてやばいんだよね、オレ!」
「愛情は入ってるから!人一倍!……いや、人十倍くらい!」
「マジで!いや〜、楽しみだわ〜!」
「それで、何を作ったの?」

私は桑田くんと苗木くんの前に作りたてのリゾットを置いた。
興味津々といった様子でさやかちゃんと石丸くんも覗きこむ。

「……あの、戸叶さん?」

苗木くんが私の顔を見た。

「何?」
「これは、何かな?」
「えっ?分からない?」
「分からないから聞いてるんだけどな」

私は首を傾げた。
何やら苗木くんは警戒している。
まるで殺人現場に遭遇したような雰囲気だ。

「リゾット」
「それは違うよ!」

……否定されるまで、とても早かった。
私の発言は一瞬で苗木くんに撃ち抜かれてしまった。

「ボクの知ってるリゾットは、少なくともこんなショッキングピンクではないよ!」
「君の知ってるリゾットは、でしょ?那由多にぃが作るリゾットはいつもピンクっぽかったですー。たしか、タラコ……だったのかな?あれ……」
「……な、なんだ。そうなのか。はは……ビビった……じゃあ見た目がアレなだけで実際はうまいパターンか!」

桑田くんがリゾットをスプーンですくう。
その手は少し震えていた。
震えながらも口に運ぶのだから、カッコいい。いろんな意味で。

「あ、でも、タラコなんて入れてないんだ、私。入れてないけど、こんな色になっちゃって」
「んぐっ……!?」

私の発言と桑田くんがリゾットを飲み込むのは同時だった。
桑田くんの顔色がどんどん青くなる。

「……リゾットは桃色なのに、顔は青くなる。……どんな色変化?」
「絶対違うよね!?」
「えっ……流火ちゃん、料理、得意なんですよね……?」
「うん、大得意」
「うぷぷぷぷ……戸叶さんのもうひとつの才能なんだよ、これ」
「モ、モノクマ……!?」

突然現れたモノクマは楽しそうに大笑い中。
腹を抱えて笑って、呼吸が苦しくなっているようだ。ヌイグルミに呼吸?とかそういうの抜きにして。

「“超高校級のアンチグルメシェフ”……それが、戸叶さんのもうひとつの才能だよ」
「ア、アンチグルメシェフ……?」
「どう頑張っても料理ができないんだよ、彼女は。おにぎりやサンドイッチという究極ウルトラハイパーに簡単な料理すら作れないんだ」
「作れますー!おにぎりくらい!米丸めただけじゃん!……何でかみんな泡吹いて倒れるけどさ!」
「作れてない作れてない!」

超高校級のアンチグルメシェフ。
実に心外なもうひとつの才能だ。
画家だけで十分。画家だけで結構だ。

「ちなみにこのリゾットはどうやって作ったの……?」
「んー……適当に」
「あ……そう適当に……」
「少なくとも、火は使ってないよ」
「使って!!」
「ええー、火怖いよ」
「じゃあ料理しないで!!」

苗木くんが一生のお願いですからと懇願する。必死すぎて怖い。
苗木くんの背後にゆらりと黒い影が見えた。
さっきまで悶えていた桑田くんだ。

「戸叶……お、お前……!」
「桑田くん、無事?」
「無事?じゃねーよ!このアホ!アホ!」
「んなアホアホ言わないでよ。せっかく作ったんだから」
「料理じゃねーだろ、これ!もう味とかわっかんねーよ!」
「ええ?塩コショウあるだけ入れたはずだよ?」
「アホッ!!この……っ、アホ!アホ!アホアホアホアホアホアホアホッ!!」

……あ、そういえば。

「牛乳さ、あれ賞味期限書かれてなかったんだけど、大丈夫?」
「……あっ、何本かは切れてたかも」
「……ア……ポ……」

桑田くんがお腹を抱えて地面に崩れる。

「あ、あたった?」
「戸叶、恨むぞマジで〜ッ!!」

桑田くんはお腹を抱えた体勢のまま食堂を飛び出した。
向かう先は恐らくトイレ。
なんともカッコ悪い退場になってしまった。

「……で、苗木くん、ついでに石丸くん。食べる?」
「今の桑田クンの様子見て勧める戸叶さんにびっくりだよ!」
「す、すまないが……遠慮しておこう……」
「私が作りますね!流火ちゃんはここでのんびりしていていいですよ!!」
「えっ?でも手伝いくらい……」
「大丈夫です!!」

「来ちゃダメ」とさやかちゃんが目で訴える。
かなり納得いかないが、私はここで大人しくしていることにした。

「おかしいなぁ……やっぱり火使えないのが一番のウィークポイント?」
「火が使えてもキミはすごいもの作るかもって、先生は期待してるよ。キミの料理なら殺人に使えそうだよね」
「……君の本体見つけたらボコってやる。大体何しに来たの」

まさか、私のもうひとつの才能を苗木くんたちに説明しに来た訳じゃないだろう。
案の定、モノクマは思い出したように「そうそう」と言う。

「実はオマエラに大事なお話があるんだ。だからこの朝食会とやらが終わったら体育館に集合して、全員」
「……拒否権は?」
「ちょいちょい、緊急集会ですよ。だから必ず来なさい。石丸クンお願いね〜、くれぐれも欠席者のいないよーに!」
「分かりました!」
「君どっちの味方なの!」
「しかし戸叶くん!集合というのは大事なのだぞ!?それも緊急がついている……よほど大事なことなのだろう!!」

……どうせ、ロクでもないことだよ。

また動機とかだったらどうするんだ……。

モノクマが立っていた場所を睨む。
いなくなるのが、相変わらず早い。
そこはただの地面。

「いい予感なんてしないよ……」
「でも、行かなきゃ……」
「……ま、そだね」

緊急集会。
全員に。

……殺人は、起きてないよね?

大丈夫だよね。
さやかちゃんのことは止めた。止められたんだ。

「で、苗木くん」
「何?」
「食べない?」
「食べない」
「そう」
「うん」
「……石丸くんは」
「僕は他のみんなを呼んでこよう!まだ寝ている者もいるかもしれないからな!」

……逃げた。
まったく、度胸のない男共だ。
足早に食堂を去った石丸くんを、ちょうど食堂にやって来た不二咲さんは不思議そうに首を傾げて見つめていた。

「不二咲さん、おはよう」
「あ、戸叶さん……!お、おはよぉ……!」
「ねぇねぇ不二咲さん!これ―――」
「やめなさいっ!キミもしかして料理が下手って自覚がないの!?」

苗木くんは私からショッキングピンクリゾットを奪う。
それは、大和田くんに何とかしてもらおうという結論が出た。

そして結局、石丸くんに叩き起こされてきた大和田くんもこれは無理と、モノクマに献上することになった。

「食べなよ、男らしく」
「食いもんじゃねーもんを誰が食うか」
「……次はカレー作ってみるね!」
「いるかッ!!」

大和田くんに殴られた。寝起きだから力加減ができていないのか、かなり痛かった。
みんなしてそんなに私の料理を否定しなくたっていいじゃないか……。

「皆さん、できました〜!」

さやかちゃんが厨房から戻ってきて、いい匂いが食堂に広がる。

そうだ。
そのうち、さやかちゃんに料理教えてもらおう。

それならたぶん、みんな食べてくれるよね?

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