緋の希望絵画 | ナノ

▽ 日だまりに溶けた・2




「オマエラ、ゆとり世代の割にガッツはあるんだね。でも、ボク的にはちょっと退屈ですぅ〜!」

大和田くんの腕が震えている。
彼は、校則をちゃんと読んだんだろうか……モノクマに暴力はNGだっていうのに。

「あ、分かった!ピコーン!閃いたのだ!場所も人も環境も、これだけミステリー要素が揃っているのにどうして殺人が怒らないのかと思ったら……そっか、足りない物がひとつあったね!うぷぷぷ、なーんだそっか!だったらカンタン!ボクがみんなに殺人の“動機”を与えればいいだけだもんね!」

…………“動機”?

…………殺人の、“動機”。

「……ところでさ!オマエラに見せたい映像があるんだけどさっ!ちょっとした外の映像なんだけど!」

……そ、外の、映像?
あ、ああ……ダメ……思考、追いつかない……。
モノクマは今、殺人の“動機”を与えるって言った。
なのに、その直後に……映像?なに?

「……早速確認してみましょうか。……でも、その前に聞かせてもらえる?」

霧切さんは冷静に、鋭い目付きをしてモノクマを見つめていた。
なんで霧切さんはこんなに冷静でいられるんだろう……。

「あなたは、何者なの?どうしてこんなことをさせるの?あなたは……私達に何をさせたいの?」

霧切さんの問いは、私たちが抱いていた疑問そのもの。
この理不尽なルールのコロシアイ学園生活を定めたモノクマへの、純粋な疑問。
そんな複雑な感情を含めた単純な疑問にすら、モノクマは何でもないように答えた。

「……ボクがオマエラにさせたい事?あぁ、それはね……」

モノクマの赤い目が、ギラギラと光る。

「『絶望』……それだけだよ」

ゾワリ。
寒気がする。鳥肌が立つ。
ヌイグルミにそう言われただけなのに、怖いと思ってしまう。

「後の事が知りたければ、オマエラが自分達の手で突き止めるんだね。この学園の謎を知りたければ好きにして。ボクは止めないよ。だって、オマエラが必死に真実を探し求める姿も面白い見世物なんだしさ!!ボクも楽しませてもらおーっと!!」

……それだけ。

それだけ言い散らして、モノクマはいなくなってしまった。
頭が混乱する。呼吸をするのも苦しく感じた。
大和田くんの手首を掴んでいたのは、もしもがないようにと彼を押さえ付けておく為だったのに……いつの間にか、ただ恐怖を紛らせる為に握っていた。

「……真実を求めるのは自由。あいつはそれを止めない。……なるほどね」

満足しているのは霧切さんだけのようだ。
いいこと聞けたって顔をしている。何も収穫はないように思えるのに。

「されど、外の映像とはなんのことだ?気にかかるな……」
「よーし、じゃあここは……」

大和田くんはぐるりと食堂を見回したかと思うと、その視線は苗木くんに向けられたところで止まった。

「おう苗木!ちっと調べてみてくれや!」
「えっ?な、なんでボクが……?」
「オメーが扉の近くに立ってるからだ。決まりだろ?」

……な、なんて横暴な……。

「俺がこうやって頼んでんだ。ちっと調べるくれーできるだろうがよ」
「……大和田くん、それ頼んでない。軽く脅迫。むしろ脅迫」

ほら、苗木くんがビビった顔して首を縦に振ってるじゃないか。
初日に殴られたことがトラウマになってるんじゃないだろうか……かわいそうに……。

「苗木くんが行くなら、私も行きます。一人だと危ないじゃないですか」
「そっか、わーったよ。じゃあ二人とも頼むぜ。何かあったらソッコーで呼べよ。俺が駆けつけてやっからよ!!」

哀愁漂う苗木くんと、それを可憐な笑みでなだめる舞園さん。
なんて言うか、苗木くんは、本当に哀れだ。
私は大和田くんから離れて、二人を食堂外まで見送った。
そこへ、不二咲さんがこっそり耳打ちしてくる。

「大和田君って、なんていうか……なんていうか、酷い人なのか頼れる人なのか、よく分からないねぇ……」
「両方なんだよ」

悪人では絶対にないが……。
かといって、善人でもない。

「まぁ……なんだかんだ頼りにはなるんだよね。暴走族の総長だけあって」
「……戸叶さんは、大和田君が怖くないの?」
「うん。まったく。幼なじみだから、かな。時々怖いって思う時もあるけど、そんなの、本当にたまにだよ」

大和田くんの色は、不思議な色をしている。
荒々しいかと思えば、意外と繊細な色。
嵐のあとの穏やかな雰囲気に似ている。

「……まったく見えないけどね。不二咲さんから見たらやっぱり怖いでしょ」
「う、うん……ごめんなさい……い、嫌だよね。幼なじみが、怖いなんて言われるの……ごめんなさい……」
「いや、彼の見た目で怖くないって言うのが無理だと思うよ。私はたぶん、特殊なんだよ」

幼なじみだからという理由よりも。

「……彼のお兄ちゃんと私のお兄ちゃんの方が、いざという時の怖さでいったら、あ……あははははは……」

笑うしか、ない。
そんくらい、怖い。怖かった。

怒った大亜にぃと、那由多にぃというのは。

那由多にぃなんて、現役時代、よそ様のチームに対して容赦がなかった。
姿を見れば、すぐに掴みかかっていった。かなり好戦的な遊撃陣であった。


……だから、那由多にぃは、強いし。


……大亜にぃ以外に、ケンカで負けたこと、ないし。


……だから、信じないよ。

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