緋の希望絵画 | ナノ

▽ それは甘美だけど・2




寄宿舎エリアを抜け、学園エリアの方に行くと、今度は朝日奈さんに会った。
あと、大神さんと……腐川さんもいる。

「腐川さんも一緒なんだ?」
「な、何よ……わ、悪いの?」
「い、いや……悪くないけどさ、組み合わせが珍しいなぁって」

だってアウトドアとインドア。ポジティブとネガティブ。水と油。
正反対って言葉が似合う組み合わせだもの。

「こ、この筋肉バカどもに無理矢理連れ出されたのよ……!あ、あたしがここにいるのはあたしのせいじゃないわ……!!」
「連れ出したって何よ!昨日一緒に来たそうだったけど来なかったから今日誘ったんじゃん!!」

あー、なんか朝日奈さんと腐川さん、言い争い始めちゃった……。

「……すごい、ね。連れ出したのも、すごいと思う。腐川さん、すっごい人間不信っぽいのに……」
「実際に誘いをかけたのは朝日奈だ。我では話にすらならん」
「……だろう、ね」

潰されるとか、被害妄想しちゃいそうだもん。

「も、もうイヤよっ!これ以上あたしを脳筋の世界に引き込まないで!!」
「あっ、腐川ちゃん!」

腐川さんはダッシュでこの場を去っていった。
……は、速い。か、彼女、意外と動ける人……?

「……どうする?追いかける??」
「いいや。無理強いするのはやめておけ」
「それもそっか〜」

……相性、最悪っぽいしね。

「戸叶ちゃん。戸叶ちゃんも一緒に来る?」
「う、ううん……わ、私、大和田くんと一緒にって、約束してるから……」
「そっかぁ。じゃあまたの機会にしよ!バイバイ、戸叶ちゃん!」
「さらばだ、戸叶」
「……う、うん……バ、バイバイ……」

朝日奈さんと大神さんを見送る。

……ここ、いろんな人がいるなぁ。
色々な、様々な、個性的な原色ばかり。
見ていて飽きない。

「……欲しい色、ばかりかも……」

私は自然と口の端が上がる。
私だけでは出せない色。
みんなを見ていれば、みんなと一緒にいれば、私一人で出せる色になるんじゃないかと期待する。

「……あ、創作意欲、湧いてきた」

いろいろ描ける気がする。
玄関ホール、行こ。
大和田くんが来たら、描けなくなっちゃう。

そう思って、私は玄関ホールに飛び込むように入った訳だが。

「おっ、アーティストガールの流火ちゃんじゃーん。おはよーさんっ」
「……桑田くん?……おはよ」
「……あからさまにイヤそうな顔すんなよ。傷付くだろ」

先客が、いらっしゃった。

桑田怜恩……。
超高校級の野球選手……とは思えないチャラチャラした風体に、性格。スポーツマンシップの欠片もなさそうな人……。

「……あっ?大和田は一緒じゃねーんだ?ずっとベタベタ引っ付いてたのに」
「……まだ寝起き、みたいで。ここで待ち合わせ」
「ふーん。じゃ、やっぱデキてんの?ぶっちゃけお前らってどんな関係だよ?」
「……幼なじみ。お兄ちゃん、みたいな感じ、かな」
「え〜……んだよ、ツマンネーな……」

……つまるつまらないの話じゃないと思うけど。
別に、深く関わる必要もない。
軽く流しておけばいいよね……絵、描きたいし。

私は出口らしき場所に取り付けられた冷たい鉄板に背中を当てる。そのまま体育座りをして、スケッチブックを開いた。


「なんだよ、絵描くの?好きだねぇ、絵。何描くんだ?」
「……さぁ。何も決めてない。開いて、ペンを動かせば、止まらなくなる。それが、作品になる」
「へぇ〜。戸叶ってやっぱ天才なんだ?」
「……さぁ」

ペンを緩く動かしながら、私は思考を巡らす。

天才……天性の才能……?
そう考えたこと、なかったな。
私はただ絵を描いて、周りが勝手に騒いでて、流れ流れるままに、気付いたら画家になってた。
だから、別に、何も感じない。

「……桑田くんだって、天才でしょ。野球の天才」
「はぁ?んなもんで天才とか言われたくねーって!」
「……でも、超高校級の野球選手じゃない」
「残念でした!オレは超高校級の野球選手なんて肩書き、捨ててやるんだ。将来的には……超高校級のミュージシャンになっから!」

……ミュージシャン?

「……野球選手が、ミュージシャン?」
「だぁかぁらぁ、野球はもういいんだって!野球なんて、この学園入る為の踏み台にしかならねーし。これからは音楽一本でやっていくんだ」
「……音楽が、好きなの?へぇ……意外と、芸術的……」
「おお、さっすが画家!芸術的な男が好きなんだ?んじゃオレたちお似合いっ?」
「それはない」
「瞬殺っすか……」

大体、私が好きな男性のタイプは芸術的な男性ではない。
よく、好きになった人が好きなタイプだというけれど、私はそれが正解だと思っている。
実際には、好きなタイプが分からないからそう言っておくだけなんだけど。
……まぁ、桑田くんみたいなタイプは好きにはならないよ。絶対。

「……野球はもう、やらないの」
「野球のいいとこなんて少ねーじゃん。スポーツ特待生で勉強しなくていいのと、モテることぐらいだろー」
「……そう」
「まぁモテるのはデカイな……!野球の千本ノックは嫌いだけど、夜の千本ノックは大好き……なんつって!」
「……………………」

神様がいるとしたら後悔してるだろうなぁ。
彼みたいなのに才能あげたこと。

「今度詳しく話してやるよ。オレのモテ秘話を!」
「……あ、そう……」

桑田くんは元気一杯愛想一杯の笑顔を振りまいた。
しかし、その笑顔はすぐに消えて、だんだん真っ青な、引きつった、無理矢理笑ったような笑みになる。

「や……やっほー。大和田ー、元気ぃ……?」
「えっ、大和田くんっ!?―――……うっ……」

嬉々として私は立ち上がったが……なんというか、大和田くんの殺気に退く。
殺気を身に纏っているくせに、うっすら笑っているのが余計に恐怖を増大させた。

「流火、こっち来い?」
「う、うん……!」

私は大人しく大和田くんの側に立つ。
大和田くんは私の頭をわしゃわしゃと乱暴に撫でる。

「大丈夫だったか?妙なことされたり、変なこと言われたり……」
「うっわぁ〜……オレ信用ねぇ」
「さっき若干下ネタ入ったけど大丈夫だよ!」
「わぁ〜……戸叶ちゃんってば正直〜……」

桑田くんに絡まれないように大和田くんのうしろに隠れつつ。
桑田くんが大和田くんに半殺しにされないようにフォローを入れつつ。
ちまちまと絵を描く。
桑田くんが大和田くんに殴られようが何されようが正直どうでもいいけど、連日誰かを殴って気絶させるなんて、笑えないから。
……こんな状況なら、なおさら、だよね。

「ねぇ大和田くん。おなかすいたー」
「朝飯食ってねーのかよ」
「真っ直ぐここ来たの。何人かの人には会ったけど……」
「じゃあー……食堂行くか?」
「うんっ!」
「昼飯も兼にしちまうか」
「白米食べたいっ、おにぎり作って!」
「カップ麺でいいだろ」
「白米食べたいって希望言いましたー!」
「とりあえず食堂行ってから決めよう。な?」
「うんっ!白米あるといいねっ!」

食糧は豊富だから、あるんだろうけど……。
炊かれてたらいいな。炊けるの待つのはツラい。

「じゃあね、桑田くん」
「……あ、オレを誘うとかはしないんだ」
「……テメェも来んのか」
「来たいなら来たいって言えばいいのに」
「行きます行きます!オレも腹減ってるんだって、ホント!だから大和田、そんな殺すような目すんな!!」

目付き、悪いなぁ。
私には関係ないことだろうに、私までビクビクするよ……。

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