▽ 私は変わらない・4
……本気か?
本気でこんなとこに泊まるの?
「……流火。一緒に寝てやろうか?」
「君……バカか!大丈夫、冗談なんだから!石丸くんにバレたらうるさいでしょ、たぶん!ふじゅん、 いせい……こうゆう?とか言いそうだよ」
「そりゃそうだな」
彼は困ったように微笑んで、私の頭の上にぽんっと手を置いた。
うん。そう。
私、彼の、この表情が好き。 大好きなんだ。
子供の頃から、意味もなく彼を困らせてはこの表情を堪能していた。
昔から、そう。
私は変わってない。
私は、那由多にぃに猫を突き出していた。
「流火ちゃーん。それ、どうしたのかなー?」
「ひろったの。かわいいよ、ねこ!」
「ひろったの、じゃないから!元いた場所に返してらっしゃい!」
お母さんが言うような台詞まんまを吐いて、那由多にぃは指先を明後日の方向へ向けた。
「なんでー。カモニクとスズメはうちでかってるよー」
「その二匹がいるからダメなの!しかもカモニクとスズメじゃないし!勝手に変な名前つけるんじゃない!自分ちの猫だろ!」
「この子はねー、ワタアメにするの!」
幼い私は、ネーミングセンスが皆無であった。
……いや、那由多にぃや大和田くんが言うには、 な
、らしい。
「しなくていい!返してきなさい!」
「ナユタくんいじわるだよ。……ねぇ、紋土くんちは?ダメ?」
急に話を振られた大和田くんは「……なんとか振られずにいられると思ったのに……」とか小さく呟いていた。
「ねぇ、ダメ?ワタアメかえない?ダイアおにいちゃんにもちゃんというよ?ダメ?」
「たぶん無理。うち、チャックいるし」
「……いぬとねこって仲わるいんだっけ?でも、チャックはおとなしいからだいじょうぶだよ!この子と仲良くできるよ?」
「それでもウチはもうムリだって」
しょぼんっという文字が見えてきそうな私は、猫をぎゅーっと抱き締める。
大和田くんは、困ったように笑った。
「……んな顔すんなって。あ、そうだ。かってくれる人、一緒に探そうぜ?それなら、いいだろ」
「……うんっ!いっしょに探そっ!」
……その顔が見たいがために、ちょっと困らせたかった。
変わらない。まったく。 あの頃から。
「……ねぇ、走りたい?」
「そりゃ、走り屋だかんな!狂乱で麗舞だかんよ!」
「……早く、出られればいいよね」
そして、部屋に戻る。あっさり。
友達以上。家族以上。だけど恋人より遥か下。
複雑な関係で。
その関係が心地いい時もあるけど、成長するほどに心地悪くなる時が増えた気がする。
『キーン、コーン……カーン、コーン』
『え〜、校内放送で〜す。夜10時になりました。夜時間になります―――』
……夜時間、みたい。
私は、自分のベッドへと倒れこんだ。
ごろんっと転がって、天井を見つめる。
明日になったら、全部夢でした。
とか、ないかな?
オチとしては最悪だけど、最高だよ。
目が覚めたら、那由多にぃがいるの。
それで、いつもみたいに布団を引っ剥がしてきて……。
ごはんだぞーって……。
………………。
…………。
……。
「……寝よ」
こうして、希望ヶ峰学園での初日は幕を閉じた。
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