緋の希望絵画 | ナノ

▽ 私は変わらない・3




「霧切くん!今まで何をしていたんだ!!とっくに会議は始まっているんだぞ!!」

すると彼女は無言のまま、テーブルの上に一枚の紙を広げた。

「これは……?」
「希望ヶ峰学園の案内図らしいわよ」
「希望ヶ峰学園の……案内図……?」
「待て。どこで、これを?」
「……どこだっていいじゃない」
「いい事あるかぁ!激しく気になるじゃないかぁ!!」

……気にはなる、けど、霧切さんの様子を見てると教えてくれなそうだ。

「そんな事よりさぁ、この紙にどんな意味があんの?」
「この見取り図を見る限りだと、今私達がいる建物は希望ヶ峰学園の構造とまったく同じみたいよ」
「つまり、ここは……正真正銘、希望ヶ峰学園ってこと?」
「……構造だけはね。でも、いろいろと妙な改築は入っているみたいよ」
「……改築?」
「詳しいことはわからないわ。手に入れた見取り図は一階の分だけだったから……」

……でもそれ、ここが希望ヶ峰学園だって可能性を上げるには十分な証拠だよね。
じゃあ、ここって希望ヶ峰学園?
私たちは、連れ去られたとかそういう訳じゃなくって……ちゃんとここに来ている。

「あ、あの、霧切さん……これ、スケッチブック……全部描いたんだけど」
「……あら。ちゃんとやってくれたのね。……ありがとう。一日借りるわよ?」
「あ、うん……どうぞ……」

……霧切さん、ちょっと笑った。
……美人だ。綺麗だ。

「もうやめんべ。暗い話ばっか」
「でも葉隠クンは心配じゃない?ボクらの、この状況が」
「心配?なんの心配だべ?だってこれって希望ヶ峰学園が用意したドッキリイベントだろ?実際こんなんでいちいち動じてたら、口からエクトプラズムが出るって話だべ!果報は寝て待て……要はゆっくりイベントの終了を待ちゃいいんだって……」

……葉隠くん、すっごいなぁ。
本気でまだドッキリだと思ってる?
でも、本当にそうだったら、救われるのかもしれない。

なんか、もう疲れた。
眠い。帰りたい。

……どこに帰るって話か。

みんながため息をつく中、セレスさんが笑った。
クスクスと、なんとも上品に。
この場には似合わない笑い。

「よかったですわね。みなさんで手分けして調査した甲斐があったようですわ」
「……え?ど、どこに?」
「調査したお陰で判明したじゃないですか。……“逃げ場のない密室に閉じ込められた”という紛れもない事実が」

……ああ。
せっかく考えないようにしてたのに……。

「そ、そんなの……どうすればいいか、分かんないよ……」
「簡単な事だ。ここから出たければ殺せばいい」
「冗談でもやめろって!!」
「皆さん落ち着いてください……!もっと冷静に、どうするべきか考えましょうよ……」
「なんか……いい方法ねぇのかよ……」
「適応ですわ。ここでの生活に適応すればよいのです」

……それって、諦めてここで暮らせってことかな。

「適応力の欠如は、生命力の欠如。生き残る者は強い者でも賢い者でもなく、変化を持つ者だけです。それを踏まえた上で、わたくしから皆さんに提案があります」
「提案?」
「閉じ込められている以上、わたくし達はこの場所で夜を過ごさなければならない訳ですが、みなさん、夜時間のルールは覚えていらっしゃいますでしょう?」

『夜10時から朝7時までを夜時間とします。夜時間は立ち入り禁止区域があるので注意しましょう』……?

「この夜時間に関してなのですが、もうひとつルールを追加した方がよろしくありません?」
「ルールの追加って?」
「夜時間の出歩きは禁止、です。校則では禁じていませんが、そこに制限を設けるのです。このままですと、わたくし達は夜になる度に怯えることになりますわ。“誰かが殺しに来るのではないか”……と」
「なっ……」

個室は、ちゃんと鍵が閉まるのに……そんな心配……。

「疑心暗鬼が続けば、すぐに憔卒しきってしまいますから」
「その防止策として、そのルールを設けようという訳か」
「でも、あたしはその案に賛成かも。ゴスロリの言う通り、そうでもしなきゃ共倒れしそうだし……」
「男子を代表してその案に賛成しようッ!!」
「勝手に代表っ!?」
「みなさん賛成していただけたようですね?よかったですわ」

……そりゃあ、あってないならあった方がいいルールなのかもしれないけど。
なんだか、殺しに向かって動いてる人はもういるんだぞーって言われてるみたいで……やだ。

「では、わたくしはこれで失礼しますね」
「え?どこに行くの?」
「もうすぐ夜時間になります。その前にシャワーを浴びておこうと思いまして。では、ごきげんよう……」

セレスさんは優雅な足取りで、そのまま食堂から出て行った。
……あの人、日本人だよね?日本人なんだよね?
すっごい西洋の空気醸し出してるけど……。

「どうすんの委員長?いなくなっちゃったけど……」
「う、うーむ……で、では、今日の会議はこのくらいにしておこうか。何故なら夜時間まで間もなくだからな!僕らも明日に備えよう!!」
「本当に……こんな場所に……お泊まりするしかないのぉ……?」
「仕方ないよ。寝ないと体力削られるだけだし……」

そんなやりとりをしている間にも、みんな食堂を出ていく。
足取りが重いのは、気のせいではないだろう。

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