▽ 私は変わらない・2
食堂には、既に大半のメンバーがそろっていて苗木くんもそこにいた。
「あ、な、苗木くん……だ、大丈夫……?」
「戸叶さん。うん、大丈夫だよ。なんだか打ち所が良かったみたいで」
……打ち所が良かった……?
そんなところで幸運なんか味わいたくないと思うけど……。
「あ……大和田くん!スケッチブック、返して!食堂のスケッチするの!あと、よくも逃げたね!?」
「あぁ、悪かったとは思ってる。お前もあの女も二人揃って泣き出したらどうしようかと心配もしたし」 「思っただけだししただけでしょ!?……ま、まぁ、別に……いいんだけど、さ……彼女、いい子っぽいし、な、仲良く、できたらなぁ……とか、思うし……って、何笑ってんのさ」
大和田くんは遠慮することなく吹いた。
なので、私も遠慮することなく彼を叩いた。
「拗ねんなよ」
「拗ねてません」
ああ、こういうのが拗ねてるって言うんだろうなぁ。
私って本当に子供……。
大和田くんだと思うと、どうしても甘えたくなるんだよな。
彼も、それを許してくれてる訳だし……。
私は、甘えてる。
……スケッチを終わらせよう。
広いなぁ、というか綺麗だ。
厨房もしっかりしてるし。
……あ。今度、料理でも作ろう。
大和田くんに作ってあげよう。
―――スケッチが終わった頃、石丸くんが私の苦手な声の大きさで、みんなに言った。
「よし、全員揃ったようだな!ではさっそく会議を始めようと思う!お互い、調査の成果を披露し合い、情報を共有しようではないか!一刻も早くここから脱出する為にッ!!」
「あ、ちょっと待って……!」
石丸くんは声を張ったはずだが、それに被るように江ノ島さんが大きな声で言った。
……彼女も、意外と声が大きい。
「何事だッ!?」
「えーっと、あの……なんだっけ?あの銀髪の彼女……あ、そうそう。霧切響子?」
「彼女がどうした?」
「いないけど……」
「なんだとっ!?」
私はぐるりと食堂を見回した。
確かに、言われてみれば霧切さんがいない……。
「霧切ちゃん……どこ行っちゃったんだろ。誰か、見た人いない?」
けど、みんな首を横に振るだけ。
……誰も、霧切さんを見てないの?
何で、いないんだろう……。
「おのれ、霧切くんめ……初日から遅刻か。遅刻しているにも関わらず遅刻の旨を伝えないとは……。遅刻者としての根性がなっておらんぞ……」
「……ど、どういう意味?」
「だが、何事も時間厳守だ。仕方あるまい」
「ね、ねぇ、だからどういう意味?」
「第一回希望ヶ峰学園定例報告会の開催を宣言するッ!」
……たぶん石丸くんって、いつもこうなんだろうな。
「十神くんはどうだ?」
「俺が調べていたのは俺達を閉じ込めた犯人についての手がかりだ。しかし、これといった発見はなかった。……以上だ」
……予想通りというか、なんというか。
けど、その後の報告でも、特にこれといったものはない。
もちろん私たちも。
というか私に至ってはスケッチしてただけで、特にそんな何を調べていたってわけではなかったし……。
「舞園くんは?」
「私は食堂を調べていました。お肉も野菜も豊富で、食糧の心配はなさそうです」
「それも16人で……いつまで持つことやら……」
「あ、あんたみたいな巨体は米ツブでも食べてなさいよ……」
「え?僕は鳥?」
「大丈夫ですよ。冷蔵庫には毎日自動で食糧が追加されるらしいですから。……と、モノクマさんが言ってました」
……モノクマ?
「……あ、会ったの?」
「冷蔵庫を開けたら、飛び出してきて、それだけ言って、またどこかに行っちゃいました」
「神出鬼没の動くヌイグルミ……怖いのか怖くないのかビミョーな設定だねぇ」
いや、冷静に考えてみたら、怖いと思うんだけど……。
「あ、ねぇねぇ、あれって結局クマなの?パンダじゃないの?」
「いや、クマなんだろ……」
「えぇー、私クマ好きだからあれはパンダの方がいい。今度ヒョコッて出てきたら絵の具で塗りつぶしていいかな?それも暴力になる?」
「……ちょっと戸叶!ふざけたこと言ってんじゃないわよ!あたしらは監禁されてんのよ?いつ殺されてもおかしくないのよ!?」
……江ノ島さんが言う。
怒鳴っている……あ、私、怒られてる……。
「……ご、ごめんなさい……っ……」
「あっ、流火、大丈夫だから、大丈夫だから泣くなっ」
「……だって、お、怒られたっ……」
「怒りたくもなるわよっ!なに呑気なこと言ってんの!!」
「ご、ごめんなさ……」
私の謝罪を遮るようにして、その声は上がった。
「ずいぶん騒がしいのね……余裕があるの?それとも、現実を受け入れてないだけ?」
霧切……さん。
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