緋の希望絵画 | ナノ

▽ 白百合の面影・3




彼自身にも分からないようだが、彼はセレスさんを見捨てられないのだろう。
理由が存在したとしても、たぶんそれは重要ではない。
重要なのは、何があっても山田くんはセレスさんの味方だということ。
恋慕とは違う、やっぱり同族意識なんだろう。

「セレスティア・ルーデンベルク殿〜、戸叶流火殿を連れてきましたぞ〜」

気を取り直すように山田くんはわざわざ声に出して、セレスさんの部屋のインターホンを押した。
間もなく、セレスさんは出てきた。

「遅いですわ。わたくしを待たせるなんていい度胸ですわね」

扉の影から姿を現したセレスさんはいつも通りのセレスさん、だったが……。

「……え?」

いや、いつも通りのセレスさんとは違う。
むしろ一瞬セレスさんなのかと疑った。

「セ、セレスさん……髪切った?」

セレスさんの髪型がいつもと違うのは一目瞭然。
あれがない。

「あ、あの……ドリル?ツインテール?き、切ったの?」

あのインパクトが強いツインドリルがセレスさんから消えている。
あれがないセレスさんにはそれなりの違和感があるものの、黒髪おかっぱのセレスさんは……なかなかに美人である。
素朴な感じがして、安広さんって感じがする。

「あれは実はウィッグですので」
「ウィッグ?……ああ、カツラか」
「ウィッグですわ」
「いやだから、カツラでしょ、」
「ウィッグ」
「……はい」

安広セレスさんに怖い笑顔で詰め寄られて、私はただ頷いた。
セレスさんだろうが安広さんだろうが、やはり根は彼女なので逆らえる気がしない。

「ふふっ、ご苦労様です、山田君。後はこちらで流火さんを好きなようにさせていただきますので、あなたは先に食堂へ行っていて下さい。もちろん紅茶もお菓子も用意して」
「人使いが荒いですなー」
「何か仰って?」
「いえ!滅相もない!」

山田くんは巨体を揺らしながら食堂に向かって走り出した。
体型に似合わない動きに私は苦笑いを浮かべる。

「流火さん、入って?」

そして2人きりになったところで、セレスさんは私に部屋を入るように促した。

「ベッドにでも腰掛けて下さいな」
「え?で、でもこれから朝食会……」
「少しくらいなら遅れても良いでしょう」
「で、でも遅れたら清多夏くんに怒られて……」
「彼はあなたに甘ちゃんだから平気です。いいからベッドに座りなさい」
「何でベッド……」
「流火さん」
「……はい」

疑心も恐怖心も何ひとつ拭えはしないが、セレスさんに逆らうことはできなかった。
私は大人しくセレスさんのベッドに腰掛ける。

「ふふっ、お利口さん」

セレスさんは嬉しそうな笑顔だ。
ベッドに座ると、セレスさんの笑顔とセレスさんの部屋がよく見える。
ゴシックでロリータってやつだ。
西欧を主調とした世界観はセレスさんの好みなのだとよく分かる。

「……」
「あの、セレスさん?」

セレスさんはじっと私を見つめている。
下から上まで、じっくりと舐め回すかのように見つめていた彼女は、やがて大きなため息をついた。

「やっぱり地味ですわ」
「え?」
「大和田君の趣味に合わせているのか何なのか知りませんが、あなたは白百合のようで気に入りません。わたくしが好きなのは薔薇です」
「いや、だ、だから……?」
「そう、だから……」

セレスさんがベッドに手を付いた。
私の両脚を挟むようにして、彼女はベッドに乗り上げる。

「セ、セレスさん……っ?」
「体中の力はお抜きなさい。あなたは楽にしていれば良いのです」
「ひゃっ……!?」
「あらあら。顔をそんな真っ赤にさせて……可愛い人」

セレスさんの手が私の制服のリボンにかかる。
私は思わず目を閉じた。

「見た目は赤百合、でも中身は面白みのない白百合……そんなあなたを、わたくしの色に染め替えて差し上げます」

セレスさんの囁き声が私の聴覚を刺激して震えた。
やっぱりセレスさんは危険だ。
決して2人きりになってはいけない。
らしくもない甲高い悲鳴を上げながら、私は心に固く誓った。

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