緋の希望絵画 | ナノ

▽ 空白は焼却・4



「ねぇ、私たちも自分の部屋、見ておこう?」
「ああ」

苗木くんの部屋を出て、私は自分の部屋に行った。
私の部屋は大和田くんの部屋の隣だった。
苗木くんの部屋とさほど変わらず殺風景。
でも、自分の部屋って意識があるからかな……。
気が楽でいられる……。

「……やっぱ、自分の部屋でも監視カメラ、あるんだ」

壊しちゃダメなんだもんね……。
なんだか常に見られてるって、落ち着かない。

「机の下に、ゴミ箱。あと机の上に、メモ帳……と、……引き出し付きだ……」

机の引き出しを開けると、そこには小さな箱と、一枚の紙が置かれていた。

『モノクマ学園長よりお知らせ。
部屋の鍵にはピッキング防止加工がされています。
鍵は複製が困難なので、紛失しないようにしてください。
部屋にはシャワールームが完備されていますが、夜時間は水が出ないので注意してください。
また、女子の部屋のみシャワールームが施錠出来るようになっています。
最後にささやかなプレゼントを用意してあります。
女子生徒には女子らしく裁縫セットを。男子生徒には男子らしく工具セットをご用意しました。
女子の皆さんは針でひと突きするのが効果的です。
男子の皆さんは頭部への殴打が有効的かと思われます。
ドントシンクだ!フィールだ!!エンジョイだ!!!』

「…………」

私は紙を丸め、ゴミ箱に投げ捨てた。

……内容はムカムカするけど、重要なこともあったな。 “夜時間は水が出ない”……これはよく覚えとこう。
夜時間になる前にシャワー浴びなきゃ……。

あとは、小さな箱……裁縫セットか。
新品?ビニール包装されてる……未開封のもの。

別に必要じゃないし、しまっとこう。

「―――オイコラ、流火ッ!!」
「きゃああぁっ!?」

いきなり肩を叩かれ、私は盛大に叫んだ。
……が、相手は分かっているので、すぐに冷静を取り戻す。

「な……なにさ、大和田くん……びっくりするじゃん……」
「さっきから呼んでただろーがッ!!無視すんなッ!!」
「……はっ?」
「はっ……って、お前……気付かなかったのかよ。隣の部屋からバンバン壁叩いてたぞ!?」
「よ、呼び方違うでしょ……!?」

……でも、待てよ……彼が隣で壁ぶっ叩いて、それで気付かないわけないよね?
それじゃあ、つまり……。

「防音対策、されてんのかな?」
「防音対策だぁ?なんでだよ」
「そんなの、私が知るわけないじゃん」
「……チッ、厄介だな」
「……そう?」

君が壁を叩く音が聞こえないと思うと、それってすごくいいと思えるんだけど。
ご近所迷惑にならない。

「それにしても……脱出口見つからなかったら、ここで寝ることになるんだね……」
「サバイバルはマシだろ」
「そうだけどさ……」

……一番いいのは、今日中にここから出られること。

テーブルの上に置かれていた部屋の鍵をブレザーのポケットに入れながら、私は彼に問う。

「で、どこから見る?」
「そういうのはお前に任せる」
「了解。じゃ、入口……玄関ホールに行こう。あれが、スケッチ一番めんどくさいと思う」
「……スケッチ?」
「そう!霧切さんにね、頼みごとされちゃった!」

私が嬉しそうにその事を話すと、大和田くんは呆れたようにため息をついた。
でも、すぐ笑って私の頭をポンポンと軽く叩いた。

「よかったな」
「うんっ」

霧切さんと仲良くなれるのかは疑問だけど
いうか、もう全てが謎だけど。

でも、頼られるのは、好き。

だから、いい。

「スケッチって、玄関ホールのあの鉄の塊みたいなのはやっぱ強敵か」
「うん、そだね。教室とか、この部屋なら、三分あれば余裕なんだけど……あれは、十五分くらい欲しいかな」
「……それでも早いけど、な」
「えぇ?遅いよー。だって、倍だよー?二倍どこじゃなくて、五倍」

色をつけなくていいただのスケッチなら、一時間なんていらない。
色が欲しいのなら、あとでつける。
忘れてないか?
大丈夫。全部覚えてる。

「……ねぇ、大和田くん」
「どうした」
「……服の裾、掴んでいい?」
「おう」

……でも、ここの色は、なんだか嫌いだな。
不気味。不気味だ。

あんまり、覚えたくない。

これなら、白と黒だけの世界の方がマシじゃないかなと思う。

「怖いのか、流火?」
「うん。ちょっと。……でも、精神的にぼろぼろにはなってない。大丈夫だよ」
「そっか。無理はすんな。……ここの色は、嫌いだろ?」

……見透かされておられる。

「……微妙なとこだよね。画家としては、全ての色を愛すべきなのかもしんないけど……私には無理。お母さは、できてたみたいなんだ……尊敬するよ 」
「おばさんも画家だったけか。そういや」
「うん。まったく覚えてないんだけどさ。那由多にぃも話してくれないし」
「……お前に取り乱されたりしても困るからだろ?」
「それもそっか」

私のお母さんは、有名じゃなかったにしろ、画家で……。
私からすれば、先輩で……。

私が幼い頃に、火事で死んだ。
お母さんと、お父さん。二人とも。

「…………大和田、くん」
「流火……?」
「…………やっぱ、手、繋ご。怖くなった」 「……あぁ。分かった」

赤は綺麗と、お母さんは言った。
うん、綺麗……だとは思うよ。

でもね、お母さん。

私は、ここにある赤を。

ううん。

ここにある全ての色を―――現段階では愛せそうにありません 。

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