緋の希望絵画 | ナノ

▽ 例えば私だったら・3




知らない方が良かったかもしれない紋土くんのどうしようもない理由が話し終わったところで、丁度モノクマアナウンスが流れた。

『キーン、コーン……カーン、コーン』
『オマエラ、おはようございます!朝です、7時になりました!起床時間ですよ〜!さぁて、今日も張り切っていきましょう〜!』

夜時間が明け、本来であれば朝食会に行かなければならない時間……。
しかし、今はそれどころでは……。

「ハッ……!!いかん!早く食堂へと急がねば……1日の基本は朝食だからなッ!!」

私は三度頭を抱えることとなった。

「……清多夏くん」
「流火!早く行くぞ!」
「いやいやいや行かないよ、君はバカなの、アホなのかい、それとも天然なのかな!?今の状況分かるよね!?」

殺人未遂が起きて、さらにこれはまだ終わりではない……気がする。
山田くんに、「石丸清多夏がアルターエゴを盗んだ」と吹き込んだ「彼女」という存在がいるはず。
だとすればこの殺人未遂はまだ終わっていないし、下手をすれば殺人が起きる可能性がある訳だ。

「とりあえず……山田くんに話を聞いてみないといけないんだろうけど……」

目を向けた山田くんは未だに気絶していた。
気絶している限り、話を聞くのは無理そうだ―――。

「おい、山田ぁ……とっとと起きろよこの腐れラードが」
「って、紋土くんッ!?何でまた足蹴にすんのッ!?」
「話聞かなきゃなんねーんだろ?だったら起こさねーと」
「無理に起こさないであげなよ、しかもその起こし方完全にいじめっ子なんだよッ!!」

それでも紋土くんは山田くんを足蹴にするのをやめない。
げしげしと蹴飛ばされる山田くんが哀れすぎて、何だか目頭が熱くなってきた。

「ブヒッ!?」
「おお、ようやく起きたかよ、山田」

目が覚めた山田くんは、紋土くんの姿を視界に捉えると即座に顔色を青くした。
しかしそれ以上に勝る何かがあるらしく、山田くんの瞳は揺らがない。
逆に、好奇心が湧いた。
何が彼にそこまでさせているのかが、気になった。

「山田くん……教えてくれるかな。君はどうして殺人なんて犯そうとしたの?」
「おい、流火が聞いてんだろ、早く答えろよ……!」
「紋土くん乱暴はもうやめよう。山田くん、十分傷ついてるから」

とりあえず、この聴取が終わったら保健室に行って彼を手当しなければなと思考の片隅で思った。

「……ふんっ!戸叶流火殿が知らないだけですよ……全てはそこにいる男が原因!諸悪の根元はそいつなのです!!」

山田くんは吐き捨てるようにして言葉を放り出して、清多夏くんを指差した。
その瞳には並々ならぬ憎悪が感じられる。

「……清多夏くんが、何かした?」
「何かしたも何も!」

己の怪我など気にする様子もなく、山田くんは立ち上がった。

「そいつは、アルたんを盗んだ張本人ですぞ!彼女に乱暴という犯罪行為を働き、アルたんを盗ませた悪の風紀委員!」
「……その、アルターエゴを盗む理由すら清多夏くんにはないと思うけど、な」

清多夏くんがアルターエゴに固執しているのは、あくまでこの学園の謎が解けるかもしれないというのと脱出の手がかりになるかもしれないという『希望』。
清多夏くんがアルターエゴに見出している価値はあくまで『希望』……それだけだ。
それが盗むまでに至るのは、その『希望』を守護する為という理由が組み立てられるかもしれないが、そんなことをしたって意味がない。
しかも……乱暴、というやつをしてまで誰かに盗ませるなんて、マトモである限り、そんなことはありえない。

「流火誤解だ!僕はアルターエゴを盗んでなどいないし、女性に乱暴を働くようなことはしないッ!」
「うん、もちろん分かっているよ」

だけど問題なのは……山田くんが清多夏くんの言葉を信じそうにないことだ。
山田くんは「彼女」の言葉を信じきっているようで、彼の中ではもはやアルターエゴを盗んだのは石丸清多夏だと認識されてしまっている。

「山田くん、君が誰に何を吹き込まれたのかは知らないが……僕はアルターエゴを盗んでいない!アルターエゴは皆の希望なのだから、盗むはずがない。僕の愛する流火にとって希望になるものを盗むはずがないんだ!」
「……おい、兄弟っ?」
「そうだ……大体女性に乱暴をするというのだって、僕はそんなことしない!僕には愛する女性……いや、少女だな……少女がいて、彼女が悲しむことだけはしないと誓ったのだ!つい先程に!」
「……清多夏くん、ご乱心?」

こんな清多夏くんにマトモという判断を下していいのか迷ったが、話がややこしくなるだけなので深くは突っ込まないようにした。

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