緋の希望絵画 | ナノ

▽ 空白は焼却・2




暗く、固かったみんなの表情も少し和らぐ。
しかし、十神白夜を除いては、だった。

「俺は一人で行くぞ……」

なんとも、空気詠み人知らずな発言である。

「ハァ!?流れ的におかしくない?」
「すでに他人を殺そうと目論んでる奴がいるかもしれない。……そんな奴と一緒に行動しろというのか?」
「ちょ、ちょっと待ってください……そんな事……!」
「ない、とは言い切れないはずだ。だからこそお前らは卒業のルールを聞いて恐怖した。……違うか?」
「そ、それは……」
「俺は自分の思った通りに行動させてもらう」

体育館を出ていきそうだった十神白夜の行動を妨害したのは、誰よりも早く……大和田くんだった。

あ、不機嫌な時の顔。

……付き合いの長い私には分かる。
キレる、これは。
なにかキッカケがあったら爆発する。
そりゃあもう、簡単に。

「待てコラ。んな勝手は許さねーぞ!!」
「……どけよ、プランクトン」
「ああ!?どういう意味だッ!?」
「大海を漂う一匹のプランクトン……何をしようが広い海に影響を及ぼさないちっぽけな存在だ……」
「……ころがされてーみたいだなッ!!」 「……あーぁ、もう……」

もう、余計なことは言わない方がいい。
それが引き金にでもなって、八つ当たりされたらたまったもんじゃない。
知らん顔しよ……。

「ちょ、ちょっと待ってよ!ケンカはマズイって!」
「うぁっ!?苗木くん……!?」

と思ったら、まったく関係のない苗木くんが割り込んできた。
こういう時はスルーと相場が決まってるのに……お人好しなのか、彼は。

「ああ!?何だオメー……今キレイごと言ったな?そいつは説教か?俺に教えを説くっつーのか!?」
「い、いや……そんなつもりじゃ……」 「ね、ねぇ、や、やめよ、大和田く……」
「るせぇ!!」

……ああ……。
ごめん、苗木くん……。
止められなかった……。

ガンッ!!

殴った。殴られた。
そんで、吹き飛んだ。

苗木くんは、まるでマンガのようにキレイに吹き飛ばされた。
なんの前振りもなく、伏線もなく……極めて唐突に、突発的に、殴られて……吹っ飛んだ……。

「……ちょっと、大和田くん……」
「……あー……」

吹き飛ばされた苗木くんは、舞園さんを中心とした心優しい方々に駆け寄られていた。
なんか、気絶しているらしい。
彼、なんも悪くないのに。
彼ってたしか、『超高校級の幸運』だっけ?
あっはっは……超不運じゃないか……。

「……みんな、ちょっといい?」

霧切さんが口を開く。
彼女は苗木くんが吹き飛ばされたことなど眼中にないようだ。

「私は、別行動の方がいいと思うわ。そっちの方が効率がいい」
「……え?一人で、ってこと?あ、危なくない、かな……?」
「そこは個人で自由にすればいいわ。ペアやグループを作るのもいいでしょうし……一人だけでいるのもいいんじゃないかしら」
「そ、それで?」
「そうね……夜七時。食堂があったから、そこに集合しましょう」

……あくまで提案、なんだろうけど、すんごい威圧感。
有無を言わせない空気……。
なんの才能かも分からない霧切さんへの謎が深まる。
……でも、霧切さんが言うと、何故か、間違ってないって思える。
十神白夜みたいに反発しようとは思わない。
むしろ、彼女に従った方が安全とさえ思えるのだが……気のせい、かな?

「調べたいことがあるから、私は行くわ。……ああ、そうだ。戸叶さん」
「ひゃ、ひゃいっ!?」

……あ、なんか、変な返事と、声。
一気に顔が熱くなる……。

「……あなた、自己紹介の時の見ていたけれど、記憶力がいいのね」
「……あ、う、うん。自信は、ある方……。新しいことなら、ハッキリと覚えてられる……」
「頼みがあるわ」

た、頼み?
……き、霧切さんが、私に?

「この場所……全ての部屋や施設、通路、細かい部分まで、完全にスケッチしてもらいたいの。あなたの記憶力も生かしてほしいわ。その場に何があったのか、よく覚えること。……できる?」
「で、できるっ!!」
「そう。……じゃあ、お願いね」

……そう言って、霧切さんは体育館を出ていってしまった。
いつの間にか、十神白夜はいなくなっている。
しかし、それよりも……霧切さんに、お願いされちゃた……。
あんな美人で、クールで、カッコいい人から……。
……学園内のスケッチと、その場に何があったのか。 よーし、やろう。頑張ろう。

「大和田くん、苗木くん抱えて!そんでどっか休ませられる場所運んで探索しに行こ!」
「はっ……?何で俺が……?」
「私じゃ苗木くんのこと引きずっちゃうよ。それに、全体的に君が悪い」
「……流火?なんか上機嫌だな?笑顔で、なんか気持ち悪ィぞ」
「うっさいなぁ、失礼だよ、気持ち悪いとか、女の子に向かって」
「あぁ……?」
「いいから、苗木くん抱える!早く探索行く!」
「分かったよ……」

かなりしぶしぶといった感じだけど、納得してくれたらしい。
大和田くんは伸びている苗木くんを抱える。
すごく軽々しい感じに持つ。

「だ、大丈夫なんですか、戸叶さん。大和田くんに任せても」
「心配しなくて大丈夫だよ、舞園さん。彼さ、ホントは可愛いの。いい子なの。怖くないよー」

周りの人から見れば、確かにナマモノのゾクさんかもしれない。
でも、私にとっては幼なじみで、兄妹もどきで、家族……みたいな。
怖いところもあるけど、本当に、すっごくすっごーく優しい人だから。
……大和田くんには言わないけどさ。

「流火ー、行くぞー」
「うん!……じゃあ、苗木くんのこと任せてね、舞園さん」

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