▽ 空白は焼却・1
『誰かを殺した生徒だけがここから出られる』。
私の思考と体は、その言葉にすっかり絡められていた。
恐怖と不安がゆっくりと浸透していき、全身を支配していく。
あたりに漂った重たい空気が、容赦なく私の頭や肩にのしかかる。
その重みに耐えるだけで精一杯だ。
重苦しい空気。
それを打ち破ったのは、なんとも無愛想な一言。
「それで、これからどうする気?このままずっと、にらめっこしてる気?」
霧切さんのトゲのある言葉は、私たち全員に向けられていた。
そのトゲが、私たちを現実へと引き戻す。
「じ、じゃあさ……何から、すればいい?」
「逃げ道を探すに決まってんじゃん!!」
「ついでにあのふざけたヌイグルミ操ってるヤツ見つけて袋叩きっしょ!!」
……簡単に、言うけど、そんな……。
「で、でもぉ……その前に電子生徒手帳っていうのを確認しておこうよ。“校則”っていうのをちゃんと知っておいた方がいいと思うんだぁ……」
「ルールも知らずに行動して、さっきのようにドカンとなられても困りますものね」
「……チッ」
「……それじゃあ、確認、しとこっか……」
私は電子生徒手帳の画面に触れた。
戸叶流火と名前が浮かび上がる。
電子生徒手帳には、いくつかの項目があり、その中から校則を選ぶ。
すると、いくつかの文章が現れた。
『生徒達はこの学園内だけで共同生活を行いましょう。共同生活の期限はありません』
『夜10時から朝7時までを“夜時間”とします。夜時間は立ち入り禁止区域があるので注意しましょう』
『就寝は寄宿舎エリアに設けられた個室でのみ可能です。他の部屋での就寝は居眠りとみなし、罰します』
『希望ヶ峰学園について調べるのは自由です。特に行動に制限は課せられません』
『学園長ことモノクマへの暴力を禁じます。監視カメラの破壊を禁じます』
『仲間の誰かを殺したクロは“卒業”となりますが、自分がクロだと他の生徒に知られてはいけません』
『なお、校則は順次増えていく場合があります』
……私は軽くめまいを覚えながら画面から顔をあげた。
……みんな、同じように難しい顔をしている。
「ざけんな何が校則だ!んなモンに支配されてたまるかよ!!」
「でしたら、校則など気にせず行動してみたらいかがです?どうなるのか、わたくしも気になりますし」
セレスさんが大和田くんにそんなことを言うので、私は一瞬彼女に掴みかかろうかと思った。
でも、それよりも彼を止めた方がいい。
ここでの校則は守ってもらわなきゃならない。
「大和田くん、やめてよ。そんなことしたら、今度は、殺されちゃう」
「……流火」
「だから、絶体にやめて。校則、ちゃんと守って」 「……俺はよ、“男の約束は死んでも守れ”って、兄貴にしつけーくらいに言われて育ってきたんだ。流火も知ってるな?」
「う、うん」
「俺にはまだ守れてねー約束があるんだ。その約束を果たすまで……俺は死ねねーんだよ!許されねー!こんな所で、死んでたまるかッ!!」
「……え、えーと、じゃあ、校則、守ってくれるってことで、いいの?」
「あ?……あぁ、そうなる、かな……」
「……よかった」
とりあえず、これで、大丈夫。
けど、安心したのもつかの間。
今度は、舞園さんが不安そうにみんなに言った。
「あの、ちょっといいですか?校則の六番目の項目なんですけど……これって、どういう意味だと思います?」
六番目のって……『仲間の誰かを殺したクロは“卒業”となりますが、自分がクロだと他の生徒に知られてはいけません』……か。
「後半の、他の生徒に知られてはいけないっていう、部分……?ええと……どういう意味、かな……」
「……卒業したいのなら、誰にも知られないように殺せということだろう」
「な、なんで……?」
「そんな事、気にする必要はない。与えられたルールは守るもの。お前らはそれさえ覚えていればいい。他人に決めてもらわねば何も出来ないお前らが、偉そうに疑問など口にするな」
「……嫌な人だね、君」
十神白夜。
一番関わりたくないし、関われないであろう男。
まず住む世界が違うし、別に仲良くなんてしなくていいだろう。
この人も、私……私たちと仲良くなんて、たとえごっこ遊びだとしてもごめんだと思ってるだろうから。
そんな中で、気をとり直すように、朝日奈さんが元気な声をあげる。
「とりあえず、殺人とか馬鹿げた話は置いといて、そろそろ学園内を探索してみようよ!」
「ここはどこなのか?脱出口はないのか?食糧や生活品などはあるのか?……僕らには知るべきことが山ほどある!」
「うぉっしゃあ!それじゃ早速、みんな一緒に探索すんぞー!!」
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