▽ 青色をした熱・6
私の中に、警笛が鳴り響く。
それは、幼い頃の忌まわしい記憶だった。
「や……やだ……いやっ!!いやいやっ!!こわいっ!!やだっ!!見たくないっ!!」
怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。
火なんか、みたくない!!
「……あ、ついっ、やだ……くるしいっ……いき、できない……!」
「……流火、大丈夫だ!!」
大和田くんが、抱き締めてくれた。
……ああ、トクントクンって、ちゃんと、鳴ってる。
生きてる音だ。
「…………いき、てる?」
「生きてる。生きてる。だから大丈夫。……な?」
「…………う、ん」
那由多にぃがよくやってくれたように、頭を撫でてくれる。
呼吸が、少しずつ楽になる。
「お取り込み中悪いけど、お話進めていいっすか!」
ぴょんっ!と気の抜けた効果音が再び鳴った。
スピーチ台に、爆発したはずの……。
「うぉっ、別のが出てきやがった……!!」
モノ、クマ……!!
「このっ、クマ……!さっきの爆発……!!大和田くん、死ぬとこだったよ……!?」
「当たり前じゃん。校則違反するのがいけないんでしょ?今のは特別に警告だけで許すけど……今後は気を付けてね。校則違反するような悪い子はお尻ペンペン程度の体罰じゃ許さないから!!」
それじゃあ……次、は……。
「ね、ねぇ、ひょっとして……あんたみたいなのって他にもたくさんいたりするの……?」
「モノクマは校内の至るところに配置されています。さらに学園内には監視カメラも配置されていて、校則を破る人を発見した場合には、今みたいなグレートなおしおきを発動しちゃうから!!」
「む、無茶苦茶……だよ……」
「じゃあ、最後に入学祝としてこれを渡しておきましょう。その名も……“電子生徒手帳”です!」
モノクマは私たち一人一人に小型の……スマートフォンに似たタブレット型の機械を渡してきた。
「学園生活には欠かせないものだから失くさないようにね!それと、起動時には自分の本名が表示されるから確認しておいて。ちなみにその生徒手帳は水に沈めても壊れない優れもの!耐久性もバッチリで10トンまでなら大丈夫!……まぁ弱点もあるんですが。あ、あと、“校則”も表示されるから各自じっくりと読んでおくよーに!」
“校則”……は、ちゃんと見ておこう。
「豊かで陰惨な学園生活をどうぞ楽しんでください!それじゃ、まったね〜!」
……そしてモノクマは、去った。
呆然とする私たちだけを残して。
「……き、君たちは、今のを一体どういうものだと定義する?」
「ど、どうもなにも……ぜんっぜん……意味わかんねーよ……」
「こ、ここで一生暮らす……?こ、こ、殺す……?な、なんなの?なんなのよおぉぉッ!?」
「……みんな、落ち着いて。とりあえず今の話をもう一度まとめてみましょう」
……霧切さん、すごいな。
私たちと違って、的確で、冷静で……怖く、ないのかな。
「あのモノクマとやらの話によると、私に与えられた選択肢は2つ。1つは、ここで暮らすか……」
「もう1つは、生きて出るために“仲間の誰かを殺す”……でしたわね?」
「こ、殺すなんて……そんな……!!」
「ウソだ……そんな馬鹿げた話、ウソに決まってるじゃないか……!!」
十神くんが、舌打ちをした。
「本当か嘘かが問題なのではない。問題なのは……“その話を本気にする奴がいるかどうか”……だ」
その言葉に、私たちは押し黙った。
押し黙ったまま、互いの顔を見回した。
ああ、そっか。
……これか。怖いのは。
『誰かを殺した生徒だけがここから出られる』……。
それって、『誰かが裏切るんじゃないか』って疑心暗鬼を生むよね。
……今の、私たちみたいに。
白か。黒か。
黒か。白か。
うーん……それなら私、黒がいいな。
だって、黒って、全ての色が混ざった色だから。
……っていう、現実逃避だ。
目を開けても、目を閉じても、“絶望”。
“希望”なんて、見えなかった。
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