▽ 私は世界を見た・6
紋土くんは反覗き派だろう……でないと、ショックだ。色々と……。
「俺は……大神にシメられるより流火に冷たい目で見られる方が堪えるからな。行きたいならオメーらだけで行け」
止めはしないのか……。
でも紋土くんが参加しないのなら、まあ……いいか。
「でもいいのかよ?」
……?
「流火は見ての通り、世辞にも発育がいいとは言えねーぞ」
……ぐさ。
「胸はおろか、身長だって女子ん中じゃ1番小さいし」
……ぐさっ。
「料理なんかできねーし」
……ぐさっ!
……てか、今料理関係ないし!
「流火なんて見ても楽しいもんじゃねーって。だからお前らも覗くのはやめとけ。流火見た瞬間にテンション下がるって。だから覗くな」
「……うん。とりあえず、大和田クンが戸叶さん見られたくないことだけは十分伝わった」
「戸叶ちゃんのこと蔑んで守るとか……どんだけ戸叶ちゃん好きなんだよ」
「戸叶流火殿が聞いたら激おこ状態でしょうがね……」
しっかり聞いてますけどね。
「……って、違ぇだろ!?覗きで見るのは胸だけと思うんじゃねぇよ!」
「桑田っちは胸目当てだべ?」
「そうだけどそうじゃねぇよ!」
「どっちだべ……」
すると桑田くんはやや鼻息荒く語り出した。
「舞園ちゃんに朝日奈はばいんばいんなナイスバディ!霧切は雪のように真っ白な肌!セレスはあの陶器のように滑らかそうな肌!大神は……あー、女だし!戸叶ちゃんは……もしかしたら着やせするタイプかもしれねぇだろッ!?」
……私に対する「もしかしたら」という仮定評価よりも、他のみんなに対する評価が私の考えていたことと同じであったことに私は少し衝撃を受けた。
まさか、女の子を見る目が桑田くんと同類だったなんて……。
「あ、そうだ、大和田。参考までに聞きたいんだけどよ、戸叶ちゃんの胸の大きさっていくつ?」
「何の参考にするつもりだテメェはッ!?つか、んなの知る訳ねーだろッ!?」
「はぁっ!?おまっ……アホか!何の為の幼なじみだ!?」
「テメェに教える為ではねーよッ!!つか言ってんだろ、流火は昔っから小さいんだっつのッ!!」
……まだ言うか。
「えーっと……あの、ところでさ、何で大和田クンは戸叶さんの……その、胸の大きさをそんな把握してるの?」
「うるせぇな!シメんぞ!」
「ええっ……!?」
苗木くんが言ったように気になったが……どうやら彼に答える気はなさそうだった。
「んで、苗木っち。どうするんだべ?覗くんか?」
葉隠くんが唐突にそう言ったことで、議論はどうやら振り出しに戻ってしまった。
「覗くよな、苗木!?」
「食堂に戻ろう、苗木君……!」
たぶん……苗木くんは今桑田くんと不二咲くんに挟み撃ちされている状態なんだろう。
苗木くんの困惑する表情が目に見えた。
苗木くんはしっかりと選ぶだろう。
どちらかを。
彼は、必ず選択する人だから……。
「よし……行こう!」
苗木くんは選んだ。
……覗く方に。
何というか……男のロマンってものが勝ってしまったんだろう。
「うぷぷ……楽しみなされよ……男のロマンを……。行ってらっしゃーい!!」
モノクマが苗木くんたちを送り出し、いつものいなくなる効果音が聞こえた。
たぶんモノクマはいなくなったんだ。
男子勢を唆すだけ唆して……でも、結局覗きを選んだのは彼らの意志。
ならば、私は黙っている訳にはいかなかった。
私はドアから少し離れて仁王立ちに構えた。
そっと静かに開かれるドアを確認して、いよいよため息をついた。
「君たちは……何をしてるのかな?」
私が少し大きめの声で言えば、ドアが大きな音を立てた。
「えっ、ま、まさかっ……戸叶さんっ……!?」
「うえっ……ウソだろッ!?」
苗木くんと桑田くんの焦る声が聞こえる。
完全に開かれたドアの向こう側には、十神くんと石丸くんを除く男子勢がいた。
ただ不二咲くんは抵抗しているようで、少し離れた場所から様子を見ていた。
「戸叶流火殿……!違うのです!僕は2次元オンリーな同人作家!これは誤解なのです、」
「ああ、いいよいいよー、言い訳なんて。私ぜーんぶ聞いてたから」
紋土くんに目を向ければ、彼は目に見えて焦っているようだった。
「……私、このケガじゃ公共のお風呂に入るのはやっぱり躊躇っちゃってさ。だからもしもの時の為に見張りをしてたんだ。まさかモノクマじゃなくて君らが来るとは思わなかったけどね」
「い、いや……戸叶さん、違うんだよ、ホント、マジで……」
まるで殺人を犯しつつ言い逃れをする死刑間近の人間みたいな顔をしながら、桑田くんは言葉を紡いでいたが。
「さて、」
んなもん知ったこっちゃない。
「大人しく貴さんらが退散するか……それとも私が大浴場まで聞こえるような悲鳴を上げるか―――どっちがいいかな?」
私が微笑めば、彼らは声を揃えた。
「食堂で待機してます!」
当然の答えだった。
悔しそうに言葉を吐く桑田くんたちは大人しく食堂に戻って行き……最後まで残っていたのは紋土くんだ。
「あー……流火。全部、聞いてたか?」
「胸も身長も小さくて料理すらできない私のこと?」
私の言葉に紋土くんは黙り込む。
どれも真実であるが故、フォローはどれも虚しいものになる。
「……大和田くんなんて、嫌いだ」
私がそっぽを向けば、彼は絶句した。
次に彼が声に出したのは私に対する必死な謝罪である。
こうして、彼らの男のロマン計画は砕かれた。
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