緋の希望絵画 | ナノ

▽ 影が落ちる・7




「は……?」

そこに写っていたのは―――不二咲くんと、桑田くんと、それから……紋土くんだ。
しかも彼らは……全員笑顔だった。
どこかの教室で、笑い合いジャレ合う3人の姿。

「……な、何?」

途端に、いくつものクエスチョンマークが次々と頭の中に浮かんでくる。

いいや、別に……この3人が一緒にいて、一緒に写り、こんな笑顔を浮かべていること自体は構わないんだ。

購買部のガチャガチャからはカメラだって手に入ると言うし……いや、でもそれはフィルムもないし、現像だって簡単じゃない……。
現像が難しいという時点で、セレスさんが持つ山田くんのデジカメで撮った写真である可能性もなくなる。
それにあのデジカメが発見されたのは今日だ……それまで私はずっと紋土くんといたし、写真を撮る暇なんてない。

それから……この写真の教室の窓……。

「鉄板が……ない……?じゃあ、この写真が撮られた場所って―――ここじゃ、希望ヶ峰学園じゃ、ない……?」

生まれてくるのは疑問ばかりだ。
仮にこの写真が撮られた場所が希望ヶ峰学園ではないとしたら……ここに来る以前から、紋土くんと不二咲くんと桑田くんは知り合いだったことになる。
だ、だけど……そんなの、ありえないでしょ……。
あの3人が知り合いなんて、そんな訳……。

「どういうことだ……」

でも、それらのクエスチョンマークは解消されることを待たずに、強引にかき消されてしまった。

「返してよ!それ、ボクんだよッ!」

相変わらずの神出鬼没で突然現れたモノクマによって写真は奪われ、私は疑問を考えることすら許されなかった。

「もしかして、見ちゃった?でも、いい笑顔でしょ?学園生活をエンジョイしてるって言うか……青春の1ページってヤツですかね!?」
「し、知ってるの……?その写真のこと……な、何でもいいよ!教えて!!」
「答えますせん!!」
「どっちッ!!」

私の叫び声は虚しく美術準備室に響いた。
モノクマに何を言ったところで無駄だった。

「……」

1人静寂の空間に残され、私はざわつきに似た感情を自分の内に芽生えるのを感じた。

「あの写真……」

確かにモノクマの言う通り、いい笑顔だった。
紋土くんのあの笑顔……私はよく知っている。
本当に嬉しい時にしか浮かべない笑顔……。

「……捏造、だよ」

そうだ、そうだよ。
捏造に決まっている。

あの3人がここに来る以前の知り合いだなんて、そんなことある訳がない。絶対にない。
どうせモノクマのイタズラだ。
私を動揺させようとしただけだ。

「……だから、疑うな。何を疑っているんだ、私は……」

でも、疑心を抱かずには……いられなかった。
もし、仮に……3人が以前からの知り合いだったとしたらって考えたら……何だか怖くなった。

「―――戸叶ちゃーん?」
「……ッ!」

美術準備室の扉が開かれて聞こえてきたのは、私がたった今疑念を抱いていた人物の声だ。

「く、桑田くん……!?」

振り返れば、やはりそこには桑田くんが不思議そうな顔をしながら立っていた。

「戸叶……?顔色悪くねぇ?何かあったのか?」
「……う、ううん、何でもない!君こそ、何かあった?」

明るく努めれば、桑田くんは余計に不思議そうな顔をした。
でもそれ以上深く聞くことはせず……だからこそ、私は救われた。

「いやぁ、大和田がよ……戸叶呼んでこいって」
「……は、はぁ?」
「やっぱ心配なんだとよ。側に置いとかないと落ち着かないらしくて……愛されてるなー戸叶ちゃーん」
「……棒読みで言わないでよ」

そりゃ呆れたくなるのかもしれないけど……。

「……まったく可愛いな、紋土くんは」
「か、可愛い……か?あいつ……」
「ああ見えて可愛いヤツだよ、彼は」
「オレにはちっとも分かんねぇ……」
「君は女子にしか興味ないからだよ」
「……そうだな!」

桑田くんは笑いながら「行こう」と私に美術室を出るよう促した。

「悪いな、戸叶。大和田も謝ってたよ。戸叶が美術室美術室うるさかったから」
「……あ、いや、いいよ……美術室見れたしさ」
「そうか?」
「うん、大丈夫」
「本当に悪い」

苦笑しながら謝る桑田くんを見て……再び胸中に渦巻くざわざわ感……。

「……あのさ、桑田くん」
「ん?どうした?」

写真―――と言いかけて、私は結局、何も言わなかった。
聞いたところで……どうするというのか。
仲間を疑って……どうするというのか。
何も心配する事なんてないよ……。
疑って、心配する私の方がどうかしてる。

「……紋土くんの様子、どう?」
「……あー、とりあえず、戸叶の名前連呼してた」
「……恥ずかしいな、乙女か……」

写真のことは忘れよう―――忘れるのがいい。
どうせ、モノクマの煽りなんだから……。

絶望を望むクマがすることだ……。

それくらい、不思議じゃない……よね。

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