緋の希望絵画 | ナノ

▽ 青色をした熱・5




まず、ヌイグルミが喋ってる。
そして、ヌイグルミが動いてる。
ラジコンかと思えばラジコンではないと否定。
どうやらこのヌイグルミ、パンダではなく、クマらしい。

……どんな状況、これ?

「起立!礼!オマエラ、おはようございます!!」
「おはようございます!!」
「石丸クン、言わなくていいと思うよ」
「起立する前に座ってねぇよ」
「では、これより入学式を執り行いたいと思います!! 」

……あ、れ?
……本当に、ただの、入学式……?

「まず最初に……、これから始まるオマエラの学園生活に一言。えー、オマエラのような才能が溢れる高校生は“世界の希望”に他なりません!」

……うん、言ってることは……入学式で言うよう 、こと。
でも、状況が状況で……飲み込めない……。
私が、警戒しすぎなだけ?

「そして、そんな素晴らしい希望を保護する為に、オマエラには“この学園だけ”で、共同生活を送ってもらいます!」

……え?

「みんな、秩序を守って仲良く暮らすようにね!」

ほ、ほら……。

「えー、そしてですね、その共同生活の期限についてなんですけどねー……“期限はありません”!!つまり、一生ここで暮らしていくのです!それがオマエラに課せられた学園生活なのです!!」

やっぱり……普通じゃない!!

「あぁ、心配しなくて大丈夫だよ。予算は豊富だから。オマエラに不自由はさせないし」
「そ、そういう心配じゃなくて……!」
「つーか、何言ってんの……?ここで一生暮らすとか……ウソ……でしょ……?」
「ボクはウソつきじゃない!その自信がボクにはある!!」

みんな、言葉につまり黙ってしまった。

「あ、ついでに言っておくけど、外の世界とは完全にシャットアウトされてますから!」
「シャットアウトって……じゃあ、窓や玄関ホールの鉄板はボクたちを閉じ込めるための……!?」
「そうなんだ。だから、いくら叫んだところで助けなんて来ないんだよ!そういう訳でオマエラは思う存分、この学園で一生生活してくださーいっ!」

もう恐怖とか、怒りとか、不快感とか、不安とか、戸惑いとか……そんなものは私の中から消えていた 。
だけど……それらが全て混ざりあったような感情のようなものはあって……。
胃から何か酸っぱいものが込み上げてくるような感覚があって……。
自分の中のことなのに、全てがわからなくて。
ただ、震えた。
全ての感情が混ざりあって出来る色は、なんて気持ちが悪いんだろう……。

「あのさ……希望ヶ峰学園が用意したにしては、悪ふざけが過ぎるんじゃない?」
「テメェ……いい加減にしろよ……それ以上は冗談じゃすまさねーからな」
「さっきから嘘だの冗談だの疑い深いんだから!!まぁ隣人を疑わなきゃ生き抜けない時代だもんねっ!!まぁ、ボクの話が本当かどうかは後でオマエラ自身が確かめればいいよっ!!そうすればわかるから。ボクの言葉が純度100%の真実だってね!」
「そんな……困りますわ……。ここでずっと暮らすなんて……」
「おやおや、オマエラもおかしな人だね?オマエラは望んでこの学園に来たんでしょ?それを来て早々帰りたいとか」

……そうだけど、そうじゃない。
こっちはこの状況が理解不能なんだ。
拒絶したくもなる。

「……でも、ぶっちゃけ、あるよ?ここから出る方法」
「ほ……本当?」

するとモノクマはにんまりと笑った。
気がする。

「学園長であるボクは学園から出たい人のために“ある特別なルール”を設けたのです!!それが『卒業』というルールです!では、この特別ルールについて説明していきましょーう。

オマエラには学園内での秩序をきちっと守った共同生活が義務付けられた訳ですが……

もしその秩序を破った者が現れた場合、その人物は学園から出ていくことになります。

それが『卒業』のルールなのです!!」

秩序を、破る?

「秩序を破るって、どういう意味?」
「いい質問だね、戸叶さん!うぷぷ……それはね……」

私は、質問したことを後悔した。

「“人が人を殺すこと”……だよ」
「……は?ころす?」
「殴殺刺殺撲殺斬殺焼殺圧殺絞殺惨殺呪殺……殺し方は問いません。『誰かを殺した生徒だけがここから出られる』……それだけの簡単なルールだよ」

ゾクリとした……。

『誰かを殺した生徒だけがここから出られる』。

……その言葉を聞いた瞬間、猛烈な寒気が足元から背中を通り、頭まで一気に駆け上がってきた。

「うぷぷ……こんな脳汁ほとばしるドキドキ感……鮭や人を襲う程度じゃ得られませんなぁ〜」

最悪で、最善。
相手の言葉を受け入れないことが、唯一私に出来る精神的処理。

「さっきも言った通り、オマエラは世界の希望な訳だけど、そんな“希望”同士がコロシアイをする“絶望”的シチュエーションなんて……ドキドキする〜!!」
「何言ってんだっつーの!?殺しあうって……何なんだよ……」
「コロシアイはコロシアイだよ。辞書ならそこらに……」
「意味なら知ってるって!そうじゃなくて、どうして私たちが殺しあわなきゃいけないの!?」
「そうだそうだ!ふざけた事ばっかり言ってないでさっさと家に帰せーっ!」
「……ばっかり?」

モノクマの、黒い面の赤い瞳が妖く光った気がした。

「ばっかりってなんだよばっかりって。ばっかりなんて言い草ばっかりするなっつーの!これからオマエラはこの学園で一生を過ごすんだよ?ここがオマエラの家であり世界なんだよ。殺りたい放題殺らして殺るから、殺って殺って殺って殺って殺りまくっちゃえっつーの!」

怖い、と思った。
殺という字が、私の耳に入ってくるのが、とにかく嫌だ。

……そんな中、おかしそうに笑っている人物がいた。
こんな状況に誰が……と思ったけど、その人を見て私は少し納得してしまった。

……葉隠くんだ。

出会って間もないが、私は彼の性格がわかった気がする。
本当に『バカ』なんだろう。この人

「おいおい、いつまでやってんだって」
「ん?」
「いや……だから、ドッキリなんだべ?実際……?」
「んんー?」
「もう十分驚いたからよ、そろそろネタバラシに……」
「……もういい。テメーはどいてろ」

……大和田くんは、葉隠くんを押し退けて最前列に立った。

嫌な、予感。
彼はまるで、地響きのような声でモノクマに凄んだ。

「オイコラ、今更謝っても遅ェぞ!テメーの悪ふざけは度が過ぎたッ!」
「悪ふざけ……?それってキミの髪型のこと……??」
「ばっか……このパンダ!」
「があぁぁぁあああッ!?」
「おっ、大和田くんっ……!」

ああ、私はもう知らない。

大和田くんは床を蹴りあげ、モノクマへと一直線に突き進んだ。

そして、ムギュッと首根っこを掴んだ。

「捕まえたぞ、コラァ!!ラジコンだかヌイグルミだか知らねーが……バッキバキに捻りつぶしてやんよ!」
「キャー!学園長への暴力は校則違反だよ〜っ!?」
「るせぇ!!今すぐ俺らをここから出せ!!でなきゃ力ずくでも……!」
「…………………………」
「おいっ、今更シカトかぁ!?」
「…………………………」
「……っ?」

モノクマの様子が、何かおかしい……。

「…………………………」
「おいっ!!」

大和田くんがモノクマを掴んでいない方の手で拳を作る。
それを大きく振り上げた瞬間。
動かなくなるモノクマは、壊れたように、狂ったようにピーピーと鳴り出した。

「妙な機械音出してねーで何とか言いやがれ!!」

それでも、ピーピーと鳴り続く音。
機械音は、だんだん早くなっている。

早くなる機械音の中……今まで言葉を発しなかった霧切さんが、声を出した。

「……危ないっ……」
「え?」
「戸叶さん、彼を止めなさいっ……」
「あっ……は、はい……!?」

首をかしげながら、私は大和田くんに向かって叫んだ。

「大和田くん!それ投げて!!」
「はぁ!?」
「早くッ!!」

自分でも驚くほど、大きな声が出た。何年ぶりに出したって声。
そんな私に驚いたのか、大和田くんは言われた通りにモノクマを宙へと放り投げた。

次の瞬間―――。


ドカンッ!!


「なっ……!!」

宙を舞ったモノクマは、跡形もなく消えてしまった。
白と黒の砂のような破片が、床に落ちる。

「シャ……シャレになんねーぞ……ば、爆発……しやがった……」

痛みを伴う激しい耳鳴り。むせ返る火薬のにおい。

爆発。

赤く、深く、暗い―――火。

火、だ……。

火。

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