緋の希望絵画 | ナノ

▽ 影が落ちる・2




報告会は続く……。
霧切さんは口元に指を当てながら訝しむように言った。

「3階には、仰々しい物理室があったわね……。その中心に……見た事もないほど巨大な機械……」
「空気清浄機らしいよ」
「は?なんでそんなモンが?」
「そんなに大きな空気清浄機なのか……?」
「なんだか……意味不明だね……」

物理室の……巨大な機械……。
ちょっと、好奇心で現物を見てみたいと思った。
どちらにしろ後で行くんだから、ちゃんと確認しよう。

「あ、そうだ……物理室でこんな物を見つけたんだけど……」

苗木くんがテーブルの上にピンク色の物体を置いた。
一瞬何か分からなかったけど、よく見ればそれは……。

「……カメラ?」
「……みたいだよ」

デジタルカメラみたいだった。

「使えるんか?」
「それは大丈夫みたいだよ」
「どらどら、貸してみ……」

意気揚々とカメラを手にした葉隠くんだったが、すぐに残念そうな顔をしてそれをテーブルの上に戻した。

「なんじゃこら、オモチャ並の低スペックだべ!画像は5枚程度しか保存出来ねーし、セルフタイマーも付いてねーぞ」
「それにしても微妙なデザインですわね。なんですの?その妙なアニメキャラは……」
「失礼な!『外道天使☆もちもちプリンセス』のプリンセスぶー子だぞッ!!」

“妙なアニメキャラ”と評したセレスさんに、山田くんはいち早く食らいついた。
見た事もない形相をしていて、私は少し引いてしまった。

「……山田クン、知ってるの?」
「知ってるも何も……そのデジカメは、アニメ化決定イベントのビンゴ大会で1等を当てた者のみに与えられたという超レア物で……僕が、その当選者に大金を積む事で、ようやく譲って貰ったという一品…………って僕のじゃねーかッ!!」
「えっ!?」

驚く苗木くんに山田くんが掴みかかる。

「ど、どこにあった!?」
「だ、だから、物理室に……置いてあったけど……」
「宝物だから……この学校にも持って来て……だけど初日にケータイとかと一緒になくなって……」
「……そんな物が、どうして物理室にあったのでしょう?」

セレスさんが首を傾げるが、しかしその言葉に明確な答えを出せる人間なんてここにはいなかった。
可能性としては荷物を奪ったモノクマが物理室に置いておいたってところだけど……。
まあ、何にしても自分の持ち物が見つかったならそれはそれで良かったんじゃ―――。

「つーか、うわ……このデジカメ……いつの間にか、すっげぇ汚れてるんですが……。コレクションしてたシールを勝手に貼られた気分……もしくは買ったシャツを先に他人に着られた気分……。―――もう、いいや……」

―――え?

「汚されてしまった……もうイラネーヨ……」
「さ、さっきまで大事だって力説してたのに?」

山田くんは力強く頷いた。
だ、大事なのに簡単に手放しちゃうのか……よく分からな…………あ、もしかして、絵を描き終えたキャンバスで猫に爪研ぎされるくらいのショック、とか?
それは、ショックだ……。
よく分かる……。

「でしたら、わたくしが預かってもよろしいですか?何かに使えるかもしれません。もし、デジカメを使いたい方がいらしたら、わたくしに声を掛けてください」
「まぁ……デジカメを使う機会なんて、そうそうないと思うけど……」
「それも……そうだね……」

写真を撮って楽しめるような場所がここにある訳じゃないのに……セレスさんはそれでもあのデジカメ貰うんだな。
貰える物は貰う主義の人なのかな……。

「そう言や、さっき十神っちを見かけたべ」

唐突に、思い出したように葉隠くんが言った。
……3階フロアの報告会なのに何故に葉隠くんは十神くんの名を出した。

「なぬっ!!どこだッ!?どこにいたッ!?」

十神くんの名前にビクリと体を大きく反応させた翔さんはどこから出したのか、鋭利なハサミを取り出し、それを葉隠くんに向けた。

「ちょ……怖いって……」
「ど・こ・に・い・た?」

翔さんにハサミを突きつけられた葉隠くんは絞り出したような声で答える。

「図書室の本を大量に持って、更衣室で読書してたべ……」
「んな所に隠れてやがったかぁ!逃がさねーぞぉ……!ゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラッ!!」

翔さんは……すっ飛んでった。
大丈夫なのかと思ったが……まあ、放置が最善なんだろう。
おかしな空気が流れたが、それもスルーだ。
……みんな、日に日にこの非日常に適応出来てきている気がする。
……あまり、喜ばしいことじゃないんだろうけど。
殺人鬼が馴染んでるって……よく考えたらすごい非日常だもんな……。

「……って、翔さん、更衣室行ってどうすんだろ。男子更衣室、入れないでしょ、翔さん女子なんだから……」
「出てくるのを待ち伏せすんだろ……つか、お前殺人鬼のこと何さん付けして呼んでるんだよ」
「…………あれ、なんでだろ」

その時私は、紋土くんの言葉に既視感を覚えた。
何故か……なんて分からない、けど……。
私がジェノサイダー翔を、翔さんと呼ぶ理由……?
それは、えっと……。

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