緋の希望絵画 | ナノ

▽ 影が落ちる・1




食堂には十神くんを除くみんなが集まっていた。
珍しく腐川さんがいるなと思ったが、よく見れば翔さんで……どうやら彼女はこの学園でコソコソ隠れて過ごすのは止めたようだ。

「えっ……流火っ……流火ちゃんッ!?」
「わっ!戸叶ちゃんどうしちゃったの!?」

私の容姿の変化にいち早く気付いた不二咲くんと朝日奈さんが私に駆け寄った。

「スッキリしたなぁ、戸叶っち。髪切ったべ?」
「そんなん見れば一目瞭然だっての!つーか……髪切るのって普通失恋した時じゃね?」
「でも可愛いですよ、流火ちゃん!もしかして……髪も制服も大和田君が?」
「リーゼント好みの女に仕上げられたのか流火りん!!でもどうせイメチェンするなら男装がよかったぞよ。ゲラゲラゲラゲラ!!」

みんながそれぞれに感想を述べているが……やはり印象として残ったのは。

「……そう、だよね……やっぱ、髪切るのって失恋した時だよね……」

桑田くんの言葉だ。
桑田くんの言葉にはまるまる同意ができる。

「まあ、戸叶ちゃんが失恋したならオレはいつでもウェルカムだけど!」
「いや、それはないから大丈夫」
「うわー……瞬殺」

桑田くんが一旦落胆したところで、私は背後から殺気のようなものが漂ってくるのを感じた。
誰のもの……なんて改めて考えることじゃない。
紋土くんから放たれている桑田くんへの殺気だ……。

「……き、君さ、自重しない?」

無言の嫉妬的威圧感に対して私が苦笑混じりにそう言えば、紋土くんは舌を打ってそっぽを向いた。
その様子に恐怖するというよりは……呆れていたという方が正しい。桑田くんだけではなく、みんながそうだった。

私と紋土くんが席に着くと、静かな声で石丸くんが言った。

「―――では、兄弟たちも来たことだし、報告会を開始しよう」

あの覇気のある声でないことが気にかかった……けど、理由は、なんとなくに分かる。
私が紋土くんを刺したことが関わっている。
確信もないくせにそう思ったのは、あの石丸くんが一度も目を合わせようとしなかったからだ。

「千里の乙女ロードも一歩から……その道はやがてオヤジ受、猛者受にも通じるという……」
「なんの話だべ……」
「ゲラゲラゲラ!!」

翔さんの発言と高笑いをみんなは見事にスルーして、報告会を開始した……。
まず大神さんが3階の全体的な雰囲気を教えてくれた。

「3階を一通り見て回ったのだが……やはり、教室や廊下の窓は鉄板で封じられていた」
「マジでどうにかしてほしいな……オレの太陽と青空を返せっつーの。むしろ外に出せっての!」

桑田くんが髪を掻き回しながら苛立ち君に言った。
それにセレスさんは流れるように言葉を差し込む。

「忘れましょう」

……小銭を落としたみたいな軽い口調だった。

「念の為、片っ端から鉄板を調べて回ったが、どれもこれも頑丈に打ち付けられてあった。やはり……3階からの脱出も難しいようだ……」
「そっか……」

みんなの気が滅入りそうな中でも、やはりセレスさんは涼しげな顔をしていた。
指を組んでにっこりと笑っている。

「そうですわ、みなさんに朗報ですわよ。3階に娯楽室なる教室が存在しました。ここでの学園生活が、より一層充実する事、間違いなしですわね。うふふ……どなたか今度オセロでもご一緒しましょう。戸叶さん、いかがですか?」
「えっ……あ、う、うん……!オセロってあれだよね!囲碁みたいなやつ!私囲碁得意!」
「戸叶さん、それは違うよ」

苗木くんが苦笑しながら、娯楽室に関しての情報を追加した。
娯楽室には雑誌も完備されているらしい。
ただ……何故か、続きの刊は追加されない。
何か理由が在るみたいだけど、それをモノクマが教えてくれる訳もなく……漫画雑誌もあるみたいだけど、続きが読めないってどんな嫌がらせだよ……。

「というか、学校に娯楽室って……なんか変な感じだね」
「普通の学校ではないからねぇ……」
「……そ、それは、笑えない言葉だね、不二咲くん」
「あ、ご、ごめん……!」

本当に……普通の学校じゃないからね、ここ。……もとい、今の状況が……。

―――あ……ちなみに、不二咲くんはみんなに自らの性別のカミングアウトは済ませたらしい。
当然驚いていたらしいけど……それだけだったという。
案外……自分の秘密って他者から見たら些細なものなのかもなと私は一人心地に思う。
もちろん、例外はあるけど……。

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