緋の希望絵画 | ナノ

▽ 君に落ちるのはまた後で・5




そんなこんなで、私と紋土くんは倉庫に来た。
私の新しい制服を入手するためだった。

「やっぱりシャツは落ち着くねー……安心する」
「しみじみ言ってねーでお前も手伝え。こちとらケガ人だぞ」
「だから、私だけで来るって言ったじゃん。部屋で休んでなよ、君は……」

私は散々1人で行くと言ったのに。
それを認めなかったのは紋土くんではないか。

「お前じゃ手が届かないところがありすぎるだろが。背が低いんだからよ」
「悪かったね」

拗ねる素振りを見せれば、紋土くんは「悪い悪い」と軽く言った。
そして、山吹色のカーディガンを私に差し出す。

「これ着てみ。ブレザーは見つかんねーよ」
「色はこれしかないの?」
「逆に何色がいいんだよ」
「赤」
「……好きだな、赤」

「でもとりあえずこれから来てみろ」と紋土くんは手を引かなかった。
私は大人しく言葉に従って、山吹色のカーディガンを羽織ってみる。
ちょっとブカブカだけど……大丈夫、かな。

「……おお、萌え袖ってやつにできるよ、紋土くん」
「いちいち報告しなくていいっつの」

伸ばしたり引っ張ったりしてみて、身体に馴染ませる。

「流火?」

なんだか、初めて着たとは思えないほどに身体に馴染んだ。

「私……これでいい」
「あ?赤じゃなくていいのか?」
「うん。なんか、これがいい」
「そうか」

うん、そうだ。
それに。

「私にこれ着せようって思ったの君でしょ?つまりは君の趣味でしょ?」
「趣味とか言うな。語弊があんだろ」
「……き、君、語弊なんて言葉知ってたんだ……!?」
「バカにしてんのかッ!!」

いやだって、まさか君がそんな頭良さそうな言葉使うとは思わなかったから……。
私がそう思っていると、次に紋土くんはリボンを差し出してきた。
いつも髪を結んだときに使っている飾りのリボンだった。

「これ、お前気に入ってたろ?だから付けとけ。ネクタイ代わりに」
「蝶々結び?」
「好きにしろ、そんくらい……」
「じゃあただの結び」

紋土くんから受け取ったリボンを、私は制服のリボンやネクタイ代わりにして結ぶ。
髪飾りとして使っていたリボンだが、制服のリボンにしても違和感はなかった。

「……別人だな」
「だろうね」

今この場に鏡はないから姿を見ることはできないんだが、でも、髪を切っただけであの別人感。
制服も変えてみれば、そりゃあ別人と言ったって過言ではないんだろう。
ども新しく始めるには……これくらいが、ちょうどいいよ。

「紋土くん、動ける?ツラくない?」
「大丈夫だって。何度も言わせんな。……3階に行きてーなら行けねーことはないんだぞ」
「……いや、それは、やめよう……?」

紋土くんや私の意思に関係なく……心配性の面々から寄って集ってお説教なのがオチだ。
中でも一番怒りそうなのは石丸くんだし……これ以上、あまり心配はかけない方がいい。
紋土くんは、特に。

「食堂で大人しくしよう?誰かいても、食堂なら文句はないでしょ?たぶん……」
「……食堂にいんのが兄弟じゃねぇことを祈るか」
「……うん。絶対部屋に強制帰還だもんね」

新しい制服に身を包んだ私は、さやかちゃんの制服を畳ながら苦笑した。

「……」

苦笑したけど、すぐに暗くなった。
石丸くんは、紋土くんを刺した私をどう思っているんだろうって。
考えたら、ちょっと怖くなった。

「流火」
「あ、うん……何?」
「いや、行くぞって」
「……うんっ」

でも、責められた方がいっそ心地いいんだろうな。
無駄に気を遣われて、距離を置かれるよりは……ずっとマシ。

そう思いながら私は紋土くんと倉庫から出る。

倉庫から出た瞬間、バッタリと鉢合わせた。

「えっ……大和田クンと―――えっ、戸叶さんっ……!?」

苗木くんだった。
まさかいきなりお人好しの心配性に出会うとは思わなかった。
これは……強制帰還だろうか?と私は予想したが、それは大きく外れた。

「ちょうど良かったよ。2人のこと呼びに行こうと思ってたから」
「えっ……そうなの?」
「3階の探索も終わったからさ。2人を抜きに報告会する訳にもいかないし……」
「そっか……」

探索、終わっちゃったのか。
……まあ、実際に行ってみるのは、後ででも十分か。

「戸叶さん、だいぶ様変わりしたね」
「……紋土くんが、やってくれたんだ」
「うん、可愛いよ」
「……えっ、かわっ……?」

顔が火照る。
苗木くんは特に意識もせずに言ったんだろうけど……そんなに恥ずかしげもなく……。

「か、可愛い……そっか……可愛い、か……あ、ありがと……」
「何を真に受けてんだよ。世辞だろうが、どう考えても」
「お世辞でも、嬉しいもんは嬉しいよ」
「……俺が可愛いって言っても動じなかっただろ、お前」
「それは……君だからだよ」
「何だそりゃ」

うん……なんだろ……。
自分で言っててよく分からなかった……。

「えーっと……とにかく、行こうか」

苦笑する苗木くんと、どうやら嫉妬しているらしい紋土くんと一緒に、食堂へ向かう。
新たに開かれたフロアのことを知る為に。

新しい……うん、新しい。
新しいって、聞こえはいいなって思う。

でも、ここでは。

新たな絶望の序曲でもある。

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