緋の希望絵画 | ナノ

▽ 君に落ちるのはまた後で・2




私は今まさに時間も呼吸も止まるかのような衝撃に見舞われた。

「はっ……え、ええっ……?か、かみ……?」
「ああ。髪。結んだらその後に切っから」
「……あ、ああ、うん。とりあえずスケッチブックでいいかな?私が持ってるのこれくらいしか、」
「そっちの紙じゃねぇよッ!髪だ髪!頭!!」
「えっ……えーっ……」

私は混乱している。
何故……髪を切る?そして、結んだ後にすぐ切るのか?……何の儀式ですか、それは。

「肩にかかるぐれーならもう結べねぇだろ。お前髪の毛細ぇし、結んだとしてもすぐに解ける長さだ」
「い、いや、ちょいと待ってくれるかな……!?」
「んだよ?」
「な、何で急に髪を切るとかそんな話……!?」

すると、紋土くんはキョトンとした。
「何で分からないんだよ」とでも言いたげな表情だが、分かる訳がない。なんとなく分かりたくもない。
耳を塞いでしまおうかと私が逡巡している間に紋土くんは理由を話し始めた。

「だってよ、髪が短かったら結ぶ必要もなくなるだろ?……俺が結んだ最後の1人になって、あとは誰にも結ばせない。流火であっても結ばせない。……なんかそれって、すごいじゃねーか」
「きっ……君はいつからヤンデレに転向したんですか!」
「ヤンデレってなんだヤンデレって!!」
「うわっ、やめっ……髪引っ張んないでッ!せっかく伸ばしたのにッ!」

そう……ちょっとは女の子らしくなろうと思って、中学から髪を伸ばし始めた。
放っておいて、いつの間にか腰まで長くなっていたが……こ、これを切ってしまうのは、すごくすごーく勿体ないと思う。

「……あっ、でも……それでフェアには、なるの……かな?」
「ああ。しかも一生その髪型でいろって女からしたら地獄なんだろ?」
「……一生!?私一生ボブで過ごさないといけないの!?何そのおしおきッ!!」
「俺は死にかけたんだから、それぐらいいいだろうよ」

そう言われてしまうと、反論はできない。
……まあ、髪長くてもポニーテールにするばかりで女の子らしいオサレというやつなんてまったくできなかった訳だから構わないっちゃ構わないんだけど……。
でもなぁ、やっぱりなぁ……。

「それによ」
「……?何?」

見た紋土くんの顔は真っ赤だった。

「俺は、その……かっ、髪短いお前の方が好きなんだよッ!!」

怒鳴られた。間近で。
鼓膜が破れんばかりに震えている。

「だからお前は短くていいんだよ、髪長いだけで鬱陶しいだろッ!?」
「おお……髪のことは君だけには言われたくないね……!」
「いいから!髪結ばせろッ!!そんで切らせろッ!!」
「やっ、いや、ちょっ……待って!待ってよ!いくら何でも展開早すぎる!!そんな唐突にイメチェンしたくないよッ!!」

しかし、私に拒否権などはない。
結局私は折れることとなって、紋土くんに髪を結ばれた。
いつも以上に、昨日以上に丁寧な手つきで。
惜しむように髪が結ばれた。

「……せ、せっかく結んだのに切るつもりですか大和田くんッ!!」
「何名字呼びに戻ってんだよ。つか、いい加減腹をくくれ」

とは言ってもだ。
カットされる側の私からすれば、不安で不安でならない。

「も、紋土くん……大丈夫……?か、髪なんて切れるの、君……?」
「大丈夫だっての、信用しろ」

ならその根拠を提示してくれと思うが……ああ、もう諦めるしかないんだろう。
用意周到というか、どこから出したのか、大和田くんは手にハサミを握っている。

「……何、それ」

いや、ハサミ……なんだけども。
何で持っているんだ的な意味で……。

「苗木から貰った」
「なんてものをプレゼントされてるんだよ、君は……」
「あの、何だ……?ガチャガチャあったろ、購買部に。あれから手に入れて、結構な数ダブってるらしいぞ。そのうちお前も貰うかもな」
「カ、カットバサミ貰って何が嬉しいんですか……」

いや、貰って損はないし、貰えるものなら貰っておくけれど……。

「すきバサミもあるから安心しろ」
「君どんだけ苗木くんにハサミ貰ってんの……」

そして苗木くんはどんだけハサミダブってるんだ……。

「ねぇ、本当に本当に本当に本当に……髪切るの?」
「イヤか?……まあ、本気でイヤなら止めるけどよ」
「そうじゃないけど……こ、怖いじゃん失敗したら」
「平気だっつってんだろが」

静かにしてろとでも言うように紋土くんは私に黒いジャージを無理矢理羽織らせた。
私が今着ている制服はさやかちゃんのスペアだから、髪の毛で散らかす訳にはいかないという紋土くんなりの配慮なんだろう。
……ああ、そうだ。いい加減新しい制服も見繕わないとな。
いつまでもさやかちゃんの制服を借りている訳にもいかないし。

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