緋の希望絵画 | ナノ

▽ 青色をした熱・4




チャイムを聞いて、私たちは全員固まった。

『あーっ……あー!マイクテスッ、マイクテスッ!……大丈夫?聞こえてるよね?えー、ではでは』

……それは、場違いなほど明るい声。
それ故か、私はその声に激しい不快感を覚えた。
私、キライだ。この声……。

『えー、校内放送!校内放送!新入生の皆さんは至急体育館にお集まり下さい!入学式を執り行いたいと思います!!……ってことで、ヨロシク!!』

……そこで、放送は終わった。

入学式?

「……俺は先に行くぞ」
「次はどんなイベントが待ってるんだろうな……っと」
「あ、待ってぇ!一緒に行く〜!!」
「だ、誰も気にとめないでしょうけど……あ、あたしも行くわよ……行っちゃうわよ……!!」

みんな、それぞれ何かを口にしながら玄関ホールを出ていった。
わー……すごいなー……何でそんな動じてないんだろ。

「流火、俺らも行くぞ」
「ええー……私、なんか、行きたくない」
「んじゃサボるか」
「うんっ!」
「君達!サボりなんて僕が許さないぞ!」
「……」

石丸くんの声を聞いて、私は思わず大和田くんのうしろに隠れる。

「君の大きな声、苦手だよ……」

すごい威圧感を感じるんだもん。
ちらっと見ると、石丸くんは若干傷付いた顔をしている。
あ……なんか、悪いことしたかな……。

「ご、ごめん……」

言ってから私は気づく。
謝るのって、こういう場合、逆効果……?

「いや、ありがとう。批判や苦情も重要な意見だ!参考にさせてもらおう!」
「……そっか」

石丸くんは、なんか一般の人とは感性がずれているらしい。
参考にさせてもらおうとか言ってるわりには、結局大声だし。

とりあえず、私達も玄関ホールを出た。

玄関ホールを出て、希望ヶ峰学園だという校舎を見渡す。
改めて見ると、すごい。ひどい。
全ての窓に、鉄板が打ちつけられている。

「あの鉄板、一部だけに付いてるんじゃなくて、全部に付いてるんだね」
「なんつーか、俺のいた鑑別所に似てんな」
「それよりひどいんじゃないの?」

異様な空気に私は寒気やら不安やら恐怖を覚える。
自分を守るように、自分の肩を抱いた。

「僕らを驚かせようとしているのだろう。あの鉄板も後で外してくれるに違いない。だから、何も心配する必要はないぞ、戸叶くん!」
「う、うん……でも……」
「チッ……。別にビビってる訳じゃねーんだ……いいぜ……行ってやろーじゃねーか……」
「…………へっ?」

少しやな感じがして、すぐ横で、サッと風を切る音がした。

「オラァ!この俺様を呼び出したのは、どこのどいつだぁ!?」
「大和田くん!廊下を走ってはいけないぞ!!」

大和田くんが走り出し、石丸くんがそれを追いかけて走り出す……。
いやいや、君も走ってるじゃないですか。小学生ですか、君らは。

「……って、待ってよ!置いてかないでッ!!」
「鈍いぞ流火!!」

君らが速いんだよ!!私はインドア派なの!!走らないの!!

体育館に着く頃には、私はほとんど酸欠状態だった。

「……しんでっ、しまえ……っ!!……き、君らなんてっ、地獄おちればいいんだっ……!!」
「……んな人殺せそうな目をすんじゃねぇよ……悪かったから……」
「げっほ……!!」

喉に空気が張り付いて、気持ち悪い。
潤いがない。
大和田くんに背中をさすられながら、私は体育館に入った。
もうみんな、体育館に集まっているようだ。
赤いカーペットに、人数分のパイプ椅子、それから、ステージの上にはスピーチ台。

「入学式、みたいだね?どうみても」
「なんだよ……“普通”じゃねーか……」

大和田くんが、そう言った直後だった。

私たちが……“普通じゃない光景”を目の当たりにしたのは。

「オ〜イ、全員集まった〜!?……じゃ、そろそろ始めよっか!!」

そんな声と共に、ぴょーんなんて気の抜けた効果音が発せられた。
スピーチ台に出てきたのは……、

「…………え?ヌイグルミ……?」

……うん、不二咲さん、正解。

黒と白の、非対称の……ヌイグルミ。
白い方は普通の愛らしい顔だけど、黒い方は……なんというか、邪悪で不気味な顔だ。

「ヌイグルミじゃないよ!!」
「な、何この……パンダ??」
「パンダでもないよ!!」

な、何か……否定してる。
ヌイグルミっぽいパンダっぽい何かがヌイグルミでもパンダでもないと、否定してる……。

「ボクは“モノクマ”。オマエラの……この学園の……学園長なのだ!!」

―――ここまで何かに視界を奪われたのは初めてかもしれない。
でも、生まれて初めて視線を奪われたものが、あんな、あんな……あんな訳のわからないものだなんて……。

「ヨロシクねっ!!」

それは……場違いなほど明るい声。
それは……場違いなほど能天気な振舞い。
私の抱いていた不快感は、いつの間にか底知れない恐怖へと変わっていた。
あぁ、本当……。

私、悪い夢を見てるんじゃなかろうか……。

そう、思いたい。

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