緋の希望絵画 | ナノ

▽ 君に落ちるのはまた後で・1



暇だ。

あまりにも暇すぎるので声に出す。

「暇だねぇ、紋土くん」
「そだな。食堂くらいなら言ってもいいんじゃねぇのか?」
「石丸くんとかいたらどうするのさ」
「……小腹が減ったとか言い訳を」
「そしたら部屋に軽食持ってきますよ、彼は」
「だよなぁ……」

私と大和田く……あ、えっと―――私と紋土くんは現在、ない頭を振り絞ってこれからどうするか考えている最中だ。
外の様子が分からないから判断のしようはないんだけれど、一応、今日が始まったのだ。
昨日の騒動が嘘であったかのように、今日が始まった。

そして、今日は朝から進展があった。
朝食会でモノクマが私たちに伝えに来た。
「3階フロアへ行けるようになった」……と。
朝食を終わって、みんなはすぐに行動を始めた。

私と紋土くん以外のみんなが、だ。

ここには心配性の人が多いのか?……ああ、多いからこんなことになっている。
朝食を食べ終えた私たち2人は早々に自室へ強制帰還させられた。
「ケガ人は大人しくしていること!」だそうだ。
まあ、自室帰還と言っても私はすぐに紋土くんの部屋に来た訳だが。
自室待機……紋土くんはともかく、私は両腕を負傷しているだけなのだから、構いやしないと思うんだが。
移動くらいは、できるよ。

倉庫から見つけてきた小型の椅子に座る私は、ベッドに腰掛ける紋土くんの腹部に目をやる。
彼の腹部には苗木くんが購買部で得たらしいサラシが包帯代わりに巻かれていた。

「……紋土くんは、やっぱりツラい?移動するの……」
「いや。これぐらいなら問題ねーよ」
「本当?」
「本当だっての。ちっとも痛くねぇしな」
「……だから、それ感覚失ってるんだってば……!!」

新たにフロアが解放されると共に、保健室が正式に使えるようになることを切に願う。
私はどうでもいいから、とにかく彼だけはちゃんとした治療を施したい。
そもそも紋土くんのケガは応急処置の延長でどうにかなるものじゃない……。

「……ごめんね、紋土くん」
「うわっ、気持ち悪ぃな。何急に謝ってんだよ」

紋土くんは茶化すように言った。
でも私にはそれに相手をしていられる心の余裕なるものは存在しなかった。

「いや……私、ちゃんと面向かって謝ってなかったなと思って。謝って許されることじゃないのは分かってるけど、ちゃんと君に謝って―――」
「流火」

紋土くんが笑った。
そして、自分の横をポンポンと手で何度か叩く。
「来い」ってことだろうか。
拒む理由もないので、私は紋土くんの隣に腰掛けた。

その瞬間だった。

「バカ流火」

べしん!と音が額に響く。
一瞬何をされたのか理解できなかったが、ジワジワと熱くなるおでこからデコピンされたのだと感じ取る。

「いた……うわっ、いった〜……!!」

後から後から痛みが襲ってきて、私は額を押さえながらベッドに転げる。

「いた、痛いよ!!何してくれてんの、君!?」
「そうか、痛ぇか」
「痛いよッ!!」
「んじゃ、これでチャラにしような」

寝っ転げる私の額を紋土くんは撫でた。
デコピンされた場所を撫でられるほどに、額ではない場所が痛んだ気がした。

「……こんなんで、チャラにするの?」
「他のことでチャラにしたいのか?」
「だっ、だってこんなのフェアじゃないし……」

紋土くんは致死量の血液を流したんだ。
私も、血を流すとは言わないけどそれほどの苦しみを味わうべきなんじゃないだろうか。

「私、これでチャラにされるのはイヤだよ……」
「そうか、それじゃあ……」

彼は考えるような素振りを見せたが、これが本当に振りだということが私にはしっかり分かった。
本当は最初から決めていたんだとなんとなくだけど思った。

「髪、結ばせてくれ」

困ったように笑いながら、同時に彼は照れているようだった。

「ほら、昨日でお前の髪結ぶのは最後にするっつったけど……その後で、あの騒動だったろ?だからよ、今度こそちゃんと結んで、それで終いにしてぇんだ」

……もちろん、私には断る理由なんてないが。

「やっぱり、それでもフェアじゃなくない?……だって、髪結ぶなんて……」
「ああ、もちろんそれだけじゃねーよ?」

待ってましたと言わんばかりの笑顔を紋土くんは浮かべた。
その笑顔は彼がケンカする時によく見せていた笑顔だ。
主に敵対勢力に見せられるその笑顔が自分に向けられていると思った瞬間、私は一気に寒気がした。

イヤな予感しかしない。
絶対にロクなことではない。

ああ、こういう悪い笑顔は暴走族っぽいなーなんて現実逃避を始めてしまうくらいに私はイヤな予感をひしひしと受け取っていた。

「流火」
「は、はい」

大和田くんは既に結ばれている私の髪を解いた。
解いてこれから再び結ぼうというのだから、物好きだ。
……大体、髪を結ぶなんて頼まれればいくらでも結ばすし、むしろ私から頼むことだってあるかもしれないのに―――などと思っていた私は、馬鹿だった。

「髪結んで、そしたら、その後によ」

私の考えも読みも、どうやら甘かった。
彼の考えていることは私の想像を遥かに越えていた。

「髪切らせろ」

こういう時に「時間が止まった」という表現がピッタリなんだろう。

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