▽ 青色をした熱・3
―――そして自己紹介終了後。
「お、おい、流火?死にそうだぞっ?本気で大丈夫か?」
「死ぬのは、まだ、早いかなぁ……」
私は見事に精神的負担がかかりすぎてほとんど放心状態だった。
大和田くんの腕に絡みついて、唸る。
「ちゃんと覚えたのか?アイツらのこと」
「やだなぁ、大和田くん。私をどなたとお思いですか。記憶力は人並み以上にいいよ。新しいこと覚えたら古いこと忘れちゃうけど」
「それって、なんかの障害だった気がすんだけどな」
「ええー……私、すでに精神的な障害持ってんのに、困るなー。非常に困る」
困ってるように見えねーぞと大和田くんに頭を軽く叩かれた。
「で?覚えたんなら言ってみろ」
「言ったら褒めてくれる?」
「おー、褒める褒める」
「じゃあ言ったげる」
私はスケッチブックを出して、それを大和田くんに渡した。
「軽く皆さん描いたの。まず1ページ目の人からね」
そして私は、さっき聞いたことを要約して語る。
「……舞園さやか。国民的アイドルグループでセンターマイクとして活躍する『超高校級のアイドル』。
桑田怜恩。プロも注目する『超高校級の野球選手』。ただし本人に野球への関心はなし。
江ノ島盾子。モデルで、女子高生たちのカリスマ的存在である『超高校級のギャル』。
不二咲千尋。革新的なプログラムを作る『超高校級のプログラマー』。
石丸清多夏。『超高校級の風紀委員』。さっき意志疎通失敗した人。とにかく真面目。
山田一二三。『超高校級の同人作家』。文化祭で一万部の同人誌を完売させたらしい。
セレスティア・ルーデルベルク。負け知らずの『超高校級のギャンブラー』。
大神さくら。アメリカの総合格闘技大会において女性でありつつチャンピオンになった『超高校級の格闘家』。
朝日奈葵。次々と大会の記録を塗り替える『超高校級のスイマー』。
腐川冬子。飛ぶ鳥を落とす勢いの女流作家でベストセラーも生み出している『超高校級の文学少女』。人間不信。
葉隠康比呂。三割の確率で何でも当てる『超高校級の師』。留年して年齢は20歳。
十神白夜。十神一族の次期当主で幼い頃から帝王学を叩き込まれた、『超高校級の御曹司』。
霧切響子。……えーと、詳しいこと不明。
以上!」
全て言い終わると、大和田くんが私の頭をわしゃわしゃと撫でた。
「大したもんだな」
「……えへへ」
あと、『超高校級の暴走族』。
君……大和田紋土。
とりあえず、ここにいる全員は……。
「ご、ごめんなさいっ……!遅れちゃったみたいで……!」
ああ、もう一人増えた……。
やって来たその彼は、なんとも平凡な顔をしていた。
雰囲気、オーラとかいうやつも、普通だ……。
苗木誠、というのが名前らしい。
『超高校級の幸運』……幸運って、才能なのだろうか?
とりあえずこれで、苗木くんとやらで、終わりかな?
しばらく待ったが、誰も来ないということで、苗木くんで終わりだったのだろう。
私たちはいくつかのことを話した。
「玄関ホールに着いたら、意識が途切れちゃって、それで、ここにきたんだけど……」
「へ?オメーもそうなんか?」
「私達もです。みんな、気を失ったみたいですね」
「でもさ……ここにいる全員が気を失ってなんてさ……なんか、おかしくない?」
「だから困ってんだろーがッ」
「いや、そうなんだけどさ……」
意識が途切れちゃったこと。
あと、江ノ島さんが言ってたけど、荷物も全部なくなってる。
主に携帯とか、パソコンとかの類いが。通信機系。
私や山田くんは、スケッチブック等の道具を持っていたから、完全に全部なくなってるとは言いがたい。
あと、おかしいのは入り口もだった。
玄関ホールの扉には、巨大な鉄板。
触れてみたけど、冷たいだけでビクともしない。
……これじゃ、外に出ようにも出られない。
「もしかしてオレら、犯罪チックなことに巻き込まれたんじゃ……?」
「希望ヶ峰学園から別の場所に連れてこられたってこと?」
桑田くんと苗木くんの不安そうな声と表情。
そして、その様子を大笑いしたのが一人。
「アッハッハッハッ!」
葉隠くんだった。
江ノ島さんが信じらんないという顔をして葉隠くんを見た。
「ちょっ……なに笑ってんのよ!?」
「さすが政府公認のエリート校だべ!こんな刺激的なオリエンテーションは初めてだ!」
オリエン、テー、ション……?
この状況が?
「そっかぁ。みんなを驚かせるためのドッキリイベントだね?」
「何よ?そういうことなの?それならオレ寝かせてもらっちゃうよ?昨日夜更かししたせいで、もーデビル睡魔が……」
みんなの緊張が解れる。
「……オリエンテーション、なのかな?」
「何でんな泣きそうな顔してんだよ、流火」
「だって……なんか、おかしい……」
「何がだよ」
「なんか!なんか変なの!ザワザワするの!」
大和田くんは訳がわからないという顔をした。
が。
私の変なこの予感は、見事に……当たってしまったわけだった。
『キーン、コーン……カーン、コーン』
チャイムが、鳴り響いた。
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