▽ 青色をした熱・2
「大和田くんっ……!どこ、いたのっ……!!」
「知らねー教室ッ!!」
結局どこなのかは分からないが、慌ててここに来てくれたのだろうなということは分かった。
肩で息をして、呼吸音が平常より分かりやすくなっている大和田くんは、私の側へやって来たかと思うと、私を自身の背中に追いやる。
それから、白い学ランの青年を見た。
「てめぇ、うちの流火に何した」
親御さんですか、と思わず発言したくなるような言葉。
大和田くんに睨まれている言われた青年はぽかんとしている。
しかし、すぐに持ち直して、しっかりと大和田くんの目を見ていた。
……すごい、と思った。
大和田くんに睨まれても怯まないって、貴重だと思う。
「僕はただ、彼女にここで何をしていると聞いただけだ!」
確認するように大和田くんが私を見た。
私は一回頷く。
彼の言っていることは正しい。
「本当か?んじゃあ何でお前は泣いてたんだよ!」
「だ、だって、大きな声で……怒鳴るみたいにするから……!私、怖いなって、思って……」
「実際お前は何してたんだ?」
「分からないよ、起きたらここいたんだ……」
「……そっか。お前も俺と同じか」
「ん?同じ?」
大和田くんはちょっと後でとでも言うように、私の頭を軽く叩いた。
そうして、すぐに白ランの青年へと向き直った。
「こいつは……あー、その、精神的にフアンテー?なんだよ。些細なことでもすぐ崩れちまう。だからそこんとこ考えて接して……、や、近付くな。こいつに関わるんじゃねぇ、いいな!」
「精神的に、不安定……?それは、失礼したっ!」
「……声、おっきい」
……青年に素直に謝られてしまって、私はちょっとバツが悪くなる。
大和田くんの背中越しではあるが、私は青年に謝ることにした。
彼は純粋に私に疑問を投げ掛けただけだろうに、まさか泣かれるとは……、それはとても、困ったことだろう。
「ええと……、ごめんなさい……、私も、まさか怒鳴られただけで泣くとは……夢にも思わなかった……」
「ど、怒鳴ったつもりはないのだが……」
「……怒鳴ってるように聞こえたんです、えっと……私は」
自分が考えている以上に、私は既にいっぱいいっぱいということだろうか?
……いや、きっと、大和田くんがいなかったからかもしれない。
いつも隣に居てくれる人がいきなり居なくなる状況など、……混乱して当然だ。
「流火。とりあえず出口行くぞ」
「……えっ、あるの?」
「ああ、来る途中で見つけた。出口行こうと思ったらお前の泣き声聞こえたから……」
「……忘れてよ、恥ずかしい」
深い深いため息をつきながら、僅かに視線をずらしながらも、青年の方へと向く。
目を合わせることはできないが、言葉は青年に投げ掛けるものだ。
「……ねぇ、君も、……えっと、行きませんか?」
「はぁ!?こいつお前泣かしたんだぞ!?」
「それは意思疏通が不可能だった結果生まれた惨事なの。いいの。忘れてってば。3歩歩いて消去して。……で、ねぇ、行くの?行かないの?」
「あ、ああ、共に行こう。僕も、どうしたらいいかわからなかったんだ」
「ん、じゃあ……」
行こう、とは言葉にしなかったが、なんとなく分かるだろうと私は完全に目をそらした。
淡白な言葉だなと自分で思った。
でも……、どう言えばいいか分からない。
「大和田くん、どっち?」
「こっちだ。迷子になるから俺の制服つまんどけ」
「ならないよ」
でも一応、……つまんでおく。
その方が安心するからだ。
出た教室からしばらく歩くと、非常口マークのついた扉を発見した。
非常口マーク……だったが、出口、とある。
ここなんだろう。
きっと。
「入るにあたってお邪魔しますとか言った方いい?」
「ゲームとかマンガじゃねぇんだ……いらねーよ、そんなん」
じゃあ……、失礼します。
一応、心の中で言った。
一歩、踏み出す。
まるで、校門をくぐった時のように。
今度ははぐれないように、大和田くんの側からは離れずに、離さずに。
そうして、扉を完全に越えた。
───そして、そこには“彼ら”の姿があった。
“超高校級”と呼ばれる、高校生たちの姿が───。
この場に集まっている高校生。
彼ら全員が、超高校級の才能の持ち主。
希望ヶ峰学園が国の将来の為に見出だした希望の人材。
「あ、また来ましたな」
「これで15人ですね……あと、何人いるんでしょうか?」
おそるおそる、ホールの空いている空間へと移動する。
ちらっと横目で窺うとらテレビで見たことある人もいる。
そういったきらびやかさと無縁な私は、なんだか場違いな気がした。
「あっ、ねぇねぇ!みんな希望ヶ峰学園の新入生なんだよね?だったら、自己紹介でもしない?とりあえず、ここにいるメンバーでさ!」
赤いジャージの女の子がいきなりそんなことを言った。
私の顔はだんだん青くなる。
「……流火?大丈夫か?顔色が……」
「……へ、へいき、へいき……だいじょぶ……」
だって、自己紹介なんてあれだ。
名前言って、ちょっと雑談する程度だ。
それくらいは……私にだって、できる。
人見知りと呼ばれている私にだって。
そうだ、人見知りといえど、それは重症ではない。
いくらか会話を通せば私は割と慣れることができる人間だ。
そう、だから、大丈夫だ。
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