緋の希望絵画 | ナノ

▽ 青色をした熱・1


……。

…………。

………………。

「……んん……?」

目を擦りながら、私は体を起こす。
なんだか……、まるで長い夢を見ていたみたいだった。

「……あれ?」

私は辺りを見回す。
DVDデッキとか、巨大なスクリーンとか、よくわからないけど、何かの機械。
それを見た私の思考はひとつの言葉で支配。

「ここ、どこ?」

それは言葉が声になり、頭の真ん中にぽんっと浮かぶ。
せっかく巨大なキャンバスがそこにあるのに、ど真ん中に小さくその文字書いた……感じ。

「……大和田くん?……どこ?」

更に言えば、一緒にいた大和田くんがいない。
まず、そもそも。
私がなんでここにいるのかが分からない。
だって、私は確かに玄関ホールにいた。
玄関ホールから……、ぐるぐるというマーブルが目の前に描かれてから、意識なくなって、気づいたらここにいて。
ここ……。
仮にここは学校……、なのだろう。
だとしたらここは、視聴覚室ってところだろうか。
教室だと思えば、不思議と恐怖はなくなった。
それでも不気味さはなくならないが。
行動に迷った私は、教卓の下で体育座りをしてしまう。
だって、こんな状況で動けと言われてどうしろというのだ。
ここには、大和田くんがいないのだ。
でも私は、さっきまで確かに大和田くんと一緒にいたはずだから、大和田くんはきっと、いなくなった私を探してくれるに違いなかった。
根拠はないが、幼馴染みとしての勘というやつだった。
根拠を出そうとしても、子供の頃にやったかくれんぼなどが挙げられるのだろうか。
私は、最後の最後まで見つけてもらえない人間だったから、よく分からない。
ああ、でも、それでも……真夜中も手前という時間に、最終的に大和田くんが見つけてくれた。

『流火ッ!』
『……もんどくん?やーっとみつけてくれたぁ。みつけてくれないかとおもったぁ』
『いくらよんでも出てこねーんだから、おまえはッ!帰ろ、アニキたち、しんぱいしてるから』
『……おこられちゃうかなぁ?』
『じゃ、いっしょにおこられようぜ』
『うんっ!』

……確か、小学校に入っていた?入っていなかった?
まだ私が彼の事を紋土くんと呼んでいたから、小学校に入る前だったか?
あの時、那由多くんにも大亜くんにもこっぴどく怒られたのは覚えている。

「……かくれんぼ禁止令出されたんだ」

子供から遊びをとるなんて、なんて酷いと思ったが、今思えば心配してこそのそれなんだろう。
友達という友達が限られていたこともあって、禁止令を出されても私は痛くも痒くもなかったが。
……それでも、ちょっと嫌だなぁとは思った。

「……もう、いいよー……、」

ああ、もう、大和田くん……、早く見つけてくれないだろうか。
いいや、これはかくれんぼではないのだが。
いいや、今の状況がよく分からないのだが。
いっそ、絵でも描いて時間潰そうか。
軽い現実逃避。
逃避……、ああ、逃避は大切だ。
絵を、描こう。
そうすれば私のごちゃごちゃになった頭と心は少しは落ち着く事が出来るかもしれない。
そう思った私が、制服から手のひらサイズのスケッチブックを出した時だった。
キィと、軋んだ音が、前から響く。
それは、私の耳が悪くなければ間違いなく扉が開く音だった。

「大和田くんっ!?」

弾んだ声で、笑顔で、私は教卓の下から出て、立ち上がった。
しかし、そこにいたのは大和田くんではなかった。

「……?君は……、」

黒髪。
角刈り。
赤目。
渦。
白い学ラン。
赤い腕章……、風紀、と書かれてる。
ビチッとしたのが印象的な……、知らない人だ。

「君!ここで何をしている!!」
「っ……」

指をさされて、凛とした声で言われる。

「答えたまえ!!君は誰だ!!何をしている!?」

大きな声だ。
大きな声が、頭と鼓膜を揺らし、私の体を後退りさせる。

「―――……!……ッ!」

なにかをいっている。
でもとおくにいるみたいできこえない。

聞きたくない。

怒鳴らないでほしい。

「ぅ……う……」
「む!?」
「うっ……うぁ……」

大きな声は嫌いだ。
怒鳴り声は、嫌いだ。

彼以外の怒鳴り声は、嫌いだ。

「うあぁぁぁぁぁああぁっ!!」
「なっ、何故泣く!?」
「だって、だって……!うっぐ、ああぁぁぁぁあっ!!」

私にだって、分からない。
ただ、客観的な時点で見れば、怖かったのだろうなと思う。
全く知らない人間、いきなり浴びせられる大きな声。
私が苦手とするものが目の前にふたつ現れたとしたら、……まあ、私の甘ったれた精神が耐えられるはずもない。
困ったことに、泣いたら私自身にも止められないから……ああ、本当に困る、私だって困る。
……え?大和田くんも声大きい?

「あぁぁぁぁぁっ……!!」
「流火ッ!!」

ドン!と扉が壊れるんじゃないかというほど、大きな音が響いた。
先程のような軋んだ音ではなく、完全に壊す勢いの音。
しかし、そのやかましい音と私の名前を呼んでくれる声に、私は安堵することになる。

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