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 鈍く輝く星を僕は知らない

朝起きたら、枕元にはピカチュウの飾りが施されたギフトボックスが置かれていた。それは所謂クリスマスプレゼントというやつで、所謂子供の特権というやつだ。母はクリスマスが近づくと「悪い子にしてたらクリスマスにサンタさん来ないんだからね」を説教の謳い文句として、それでも、当日の準備をこっそりと進めてくれていたのだろう。クリスマス、子供たちが寝静まった後にサンタさんとサンタさんのポケモンであるデリバードがプレゼントを運んでくるーーーそんな話を子供たちは信じている。
シンオウの冬はホウエンよりも寒く、サンタさんは凍えてしまわないだろうかと。リンゴがそう呟いた時、同居人であるヒョウタは少しだけ驚いたような顔をして「ちゃんと防寒してるから大丈夫だよ」と笑って誤魔化した。
リンゴの年齢であれば、サンタさんの真実についてそろそろ知っているものだが、どうやら彼女はまだらしい。リンゴの両親の教育の賜物が窺える。
天真爛漫。純真無垢。子供らしい子供だと思う。

「リンゴちゃん、そろそろ寝た方がいいんじゃない?サンタさん来なくなっちゃうよ」
「私ホウエンからシンオウに来ましたけど、サンタさんちゃんと来てくれますかね?」
「大丈夫だよ、サンタさんだから」

そういえば自分はいつまでサンタさんを信じていたっけとヒョウタは考えて、真実を知ってしまったのは割と早かったことを思い出す。ヒョウタも立派に子供というか、少年というか。何としてでもサンタの姿を見てやろうという気合いで起きている時間があった。しかしまあ……事故で見てしまった、というのが正しいかもしれない。ヒョウタが眠りに落ちている際、大きな物音がしたのだ。驚いて目を覚ますと、目の前には簡易的なサンタの衣装を着た父トウガンと、バリヤードを模した衣装を着せられたタテトプスがいた。あの時の微妙な空気感といったら。

「でも、そうだね……シンオウのサンタさんって結構ドジだからさ。ちゃんと寝ないと来ないかもしれないよ?」
「それは困ります!私すっごーくいい子にしてましたよ!」
「あはは、うん、知ってるよ」

君ほどいい子は知らないかもしれない。なんて言うのは大袈裟か。それとも惚れた贔屓目か。

「おやすみ、リンゴちゃん」
「おやすみなさい、お兄さん!」

リンゴを寝室まで見送って、ヒョウタは小さく安堵の息をつく。食事中にプレゼントを渡さなくて良かったと思った。信じているものに対して真実を知らせてしまうのは残酷だ。リンゴには、まだ猶予期間がある。

「……年頃の女の子の部屋に忍び込むのも気が引けちゃうな」

髪の毛をがしがしと掻きながらヒョウタは頭を悩ませる。
しかし、朝起きた時にプレゼントがなかった時の方がリンゴを悲しませてしまうかもしれない。リンゴの両親から彼女を託されている手前、大切で可愛い女の子である手前、リンゴをガッカリさせるのは本意ではない。
父さんみたいなドジは踏まないように、とヒョウタは気合いを入れる意味で自分の頬を叩き、時計の針が進むのを待っていた。

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