pkmn小説(短編) | ナノ
 純粋すぎて透けてしまった

シンオウは寒冷地だ。厳しい寒さが年の瀬から始めにかけて襲い掛かる。風は冷たいと表現するよりは痛いと言った方が正しいし、降り積もる雪のせいで移動もままならない。降雪する季節になると基本的に地下通路は封鎖、というより強制的に入れなくなる。炭鉱も同様。かといって、冬場にわざわざジムチャレンジャーが訪ねてくることも少なくなり、やることといえば自己鍛錬と雪かき。雪かきが主な仕事だ。
つついてもつついても、屋根には厚い雪が積もっていくし、置き場にも困っていく。防寒用にと身につけた手袋越しにも冷たさが伝わってきて、指先の感覚が消えていく。毎年の恒例行事とはいえ、楽しいものでは無い。
唯一の救いといえば、子供たちははしゃぎ倒していることだろうか。

「投げますよー!」
「あっ、リンゴねえちゃん2個持ちはずるいー!」
「わーっ、逃げろぉ!」

少し離れた広場では子供たちが雪合戦をしている。楽しそうな笑い声を聴いていると荒んだ心も少しは穏やかな気持ちになる。白銀の地面を駆け回る子供たちの息も白く、空気に溶けていく。風邪を引いてしまわないか心配になるが、ここで水を差しにいくのも嫌な大人か。
クロガネシティの子供たちと、そこに混ざった子供たちの中ではお姉さんのリンゴちゃんの様子を見守っていると、雪かきをしていた炭鉱夫のおじさんが「ヒョウタくんも雪合戦に混ざりたい?」なんて冗談っぽく聞いてくる。

「もう、やめてくださいよ……確かに皆さんから見たらボクはまだまだ子供かもしれないですけど、さすがに雪合戦する年齢じゃ」
「お兄さんー!お兄さんも雪合戦しましょうー!」

ボクが肩を竦めて言いかけているところへ、離れた場所からリンゴちゃんの声がボクの声をかき消す。リンゴちゃんの高くて澄んだ声はよく響く。炭鉱夫のおじさんにもしっかりと聞こえていたようで、彼もこれは断れないなと言わんばかりに笑っている。

「付き合ってきなよ、ヒョウタくん。さすがにオレらは腰とかやられちゃうしさぁ」
「元気に雪かきしててよく言いますよ」
「リンゴちゃーん!今ヒョウタくんそっちに行くからー!ヒョウタくんはな、雪合戦も強いぞー!」

プレッシャーが掛かりそうなことを言う炭鉱夫のおじさんは笑いながらボクの背中を押し出して、リンゴちゃんたちの方へと急かしてくれる。
おじさんの言葉にリンゴちゃんは本当ですかと瞳を輝かせているし、クロガネシティの子供たちはジムリーダーの参戦と聞いてそれぞれ期待値の高そうな表情を浮かべたり戦々恐々とした様子を見せる。
大人げない大人の強さというやつがあるというが、正直雪合戦なら得意だ。この地方で生まれ育った男子の半分はきっと雪合戦で競ったはずだ。雪玉を作るのも得意。ボクはリンゴちゃんたちの方へ向かう道すがら積まれた雪を手のひらに乗せる。手にした量は完璧。歩を進めながらただの雪だったそれを丸める。
丁度いい固さの雪玉になったそれをボクはモンスターボールのように真っ直ぐに投げた。勢いよく飛ぶ雪玉に、リンゴちゃんや子供たちから歓声が上がる。少しだけ照れくさい。

「お兄さんっ、お兄さんの雪玉壁に当たったのに崩れてないですよ!私のすぐ崩れちゃうのに!どんな裏技があるんですか!」

リンゴちゃんだけではなく、ほかの子供たちも気になっているようで教えて教えてとボクの周りに集まってくる。遊びへの意欲の高さ、向上心の高さに微笑ましくなりながらボクは笑う。

「んー……そうだね、ボクに勝ったら教えてあげるよ!みんなでかかっておいで!」

この季節の寒さは、純粋な寒いよりも痛みが増す。それでもこうして楽しさに身を委ねていると不思議と寒い感覚は薄らいで、気にならなくなる。縦横無尽に駆け回るリンゴちゃんや子供たちを寒くはないか霜焼けにならないかと心配になるのはボクが大人の世界に入り始めた予兆だと思った。
ボクは庇護欲に満たされつつ、子供たちに混ざり、一時の子供に戻っていく。

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