パルフォン | ナノ

ひみつのかんけい

「さよ、コンビニ行くぞ」
「はーい、って女の子に重い荷物持たせる気っすか、三刀屋さん、酷いんだぁ」
「お前くらいしか無事なのがいねぇんだよ、飲み物とか重いもんは俺が持ってやっから」

時刻は夜の22時を指そうとしているところ。普段なら人気がなくなる時間だというのに、CULTOの事務所にはまだ大勢の人間が残り、パソコンと向き合っている。中にはぐったりとした人もいて、編集部は死屍累々とした様子だ。
CULTOでは、たまに大掛かりな企画が進行する。よその編集部との共同記事だったり、雑誌や書籍としての掲載や出版だったり。普段好き勝手にしていることが多い編集部の人達もさすがにここまで大きなプロジェクトになると一丸となって会社に泊まり込んで作業をする。素晴らしい社畜精神だ、普段自由にしている分そういうものなのかもしれないが。
そしてこういう泊まり込みの時は三刀屋さんは夜食や飲み物を奢りで買ってきてくれる。わたしも残業で職場に残っているとよくコーヒーをくれたり、終わったあとにはご飯を奢ってくれたりもするから、もしかしたら単に三刀屋さんは上司としてそういう意識が強い人なのかもしれないが。
アルバイトということで企画の要までは深入りさせてもらえないわたしは雑用担当として三刀屋さんの買い出しにわたしが付き合うのも自然な流れだ。
あと、三刀屋さんは案外分かりやすくて可愛いところがあるので、恐らくわたしと2人っきりになりたかったのだと思う。
コンビニで編集部の人達への差し入れをある程度買って、その帰り道でも三刀屋さんは手を繋げない分こちらに肩を寄せてくる。少し歩きづらいが、三刀屋さんなりの表現なので何も言わないでおく。

「さよ、お前これ会社に置いたらもう上がれ。一応未成年だし、女だし、22時以降は働かせられん」
「三刀屋さん意外とそういう所ちゃんとしてますよね」
「意外とってなんだ、意外とって。恋人以前にうちの従業員なんだから、そういうのは気にするに決まってるだろうが」
「恋人としての言葉は?」
「男世帯にこんな時間まで置いておきたくない」
「素直っすね」
「あと、さっさとこの仕事終わらせて、またお前と飯に行きたい」
「あはは、しばらくは無理っすもんねぇ」

他愛のない会話を重ねて、夜道を歩く。編集部で仕事をしていると、ほかの人たちがいると、なかなか2人での会話はできないし、大掛かりな企画があると普段話しているような都市伝説や怪異についての雑談も少なくなる。仕事は仕事だからと割り切ってはいるが、寂しいもんは寂しいのはわたしも一緒なんだと思う。

「親が心配してました、最近は普通に家に帰ってるから」
「普通、逆じゃねぇのか?」
「彼氏に振られたのっつって」
「振らねぇよ、安心させるためにも近いうちに挨拶に行くか」
「いや、それはちょっと」
「遠慮すんなよ」
「してませんけど!」

と、言い返したところで三刀屋さんはひた、と黙る。どうやら事務所に着いたらしい。三刀屋さんは、わたしとの関係を編集部の人たちに積極的に隠そうとはしていないが、大っぴらにひけらかすことはしていない。事務所の扉を潜れば、ただの上司と部下の関係だ。

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