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聖少女に捧げる鈴蘭の面影

変な女がバイトの面接にやって来た。オカルトマニアの女子大生、だそうだ。名前は藍堂さより。あまり聞いたことのない大学で文学部、お世辞にも頭が良さそうには見えなかったが、面接をして驚いた。都市伝説や怪異、妖怪の類いについての情報はピカイチだ。オカルトマニアの中でもその女は俺と同じ分野に明るいのだとすぐに分かった。オカルト系のウェブサイトを運営する組織CULTOの中でも得意分野や派閥は存在する。UMAだったりUFO、陰謀論が好きなやつ。これはもっぱら都市伝説や怪異が好きだ。

「藍堂さより、か」

学歴や職歴、趣味や特技の欄は簡潔なくせに志望動機や備考欄に隙間なく都市伝説への愛や思い入れが綴られていた。思わず頬が緩む。面接時の淡泊で、人と話すのはあまり得意そうではない女だと思ったが、どうやら文章を書く才能はあるようだ。分かりやすい。怪異への愛情も熱も伝わってくる。

「こいつ採用」

藍堂さよりの履歴書をデスクにぽんと投げ、俺は近くにいた編集者へ伝える。編集者は一瞬まじか、という顔をしたが編集長である俺への異論はなかったのか「それじゃあ後で連絡しておきますね」とだけ言った。

「なんだよ、男だらけでむさ苦しい職場に花の女子大生が来るんだぞ、嬉しいだろ?」
「オカルトマニアの女の子はちょっと……」
「お前もオカルト好きでここにいるくせに」
「まあそうなんですけど」

けろっとした様子の編集者は早速と言わんばかりに携帯を持って藍堂さよりに連絡をしに行った。ここで働くことを待望していた藍堂さよりは採用の連絡にきっと喜ぶに違いない。
この時俺は、共通の話題で盛り上がれるバイトがやってくるとだけ思っていたのだが、どうやらそれだけで済む話ではなかった。想像以上に、藍堂さよりは一筋縄ではいかない人物だった。

藍堂さよりが働きはじめてしばらく。

彼女は俺が思っていたよりもこの編集部に馴染んでいた。

「おつかっさまっす〜」

間抜けな声が出入り口の方から聞こえ、俺は顔を顰める。視線を向けた先には藍堂さより。今日も絶望的なファッションセンスでやってきた。彼女のお気に入りらしい猫耳のキャップ。太股まで裾が伸びただぼっとした寝間着のようなオフショルダーのトップス。たぶんその下にはショートパンツでも履いているのだろう。彼女はタイツなど履く人種ではないからいつでも生足が覗いていて、男だらけの職場で何を考えているんだと俺は頭を抱えたくなった。否、抱えた。抱えながら藍堂を睨む。

「藍堂、なんだその寝間着みたいな恰好は」
「はいいい?失礼っすね、わたしの私服っすよ」
「お前は仮にも女だろ、足を出すな、腹壊すぞ。給料は出してんだからちゃんとした服を買え」
「なんすか、三刀屋さんはわたしのお母さんですかあ?ていうかオリエンタルな服にスカジャン羽織ってる人に言われたかないっすよ。……ていうかそれより三刀屋さん三刀屋さん!聞いて下さいよお」

話は終いだと言わんばかりに藍堂は俺のデスクにやってくる。デスクを乗り超えんばかりに両手をぽんとついた藍堂の表情はきらきらと輝いていた。その顔は新しいネタを見つけたときの顔だ。聞いて下さい、聞いて下さいと態度や表情で示してくる藍堂に、こう言うのが適切かどうかは分からないが、微笑ましくなる。実家に居た頃、妹が何かを伝えたいときの顔と重なる。

「なんだ、藍堂」
「ここの心霊スポット!知ってます?」

一緒に行きましょうなんて、なんともときめきのないデートもとい取材の約束を取り付けて、藍堂は嬉しそうに笑っている。こういう時だけ、年相応の少女らしい笑顔を浮かべるものだから、俺はつい、真衣の姿を重ねてこいつを構い倒したくなった。勿論、真衣と比べたら藍堂は変人であるし、コミュニケーション能力も皆無の人間無人島のような人物だが。

「ああ、いつ行く?」
「そうっすねえ……いつでも!」

しかしオカルトを愛する笑顔は、記憶の中にある幼い真衣の笑顔とは違って、何故か俺の脳裏に強く刻まれた。

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