パルフォン | ナノ

独り占めしたい大人。

さよりは、よく笑う。よく不貞腐れる。よく拗ねる。そして、同じだけまた笑う。俺と同じオカルトの世界に没頭しているくせに、喜怒哀楽のはっきりしたさよりを見ていると、なんだか「正しい人間」のように思えてしまう。実際、そういう風に出来ているだけで根っことしては俺と同じなのだが。
でなければ、恋人からの外出の誘いに対して「え?心霊スポットっすか?」なんて返さないだろう。普通。

「三刀屋さぁん、ごめんなさいってばー。いい加減機嫌直してくださいよ、ほら、三刀屋さんの好きな藍堂さよりっすよー!」
「お前は俺のことをなんだと思ってるんだ?」

さよりの謎の謝り方、或いは慰め方に不機嫌になるのも馬鹿馬鹿しくなってくる。もしかしなくてもさよりはこれを真剣に考えて言葉にしているのだから、困る。喋るタイプのコミュ障とはみんなそうなのだろうか。
事の始まりは退勤の時だ。帰宅の準備をするさよりに、恋人としての行動を珍しく俺が取ったのだ。編集部のやつが話していたテーマパークのチケットを気まぐれで調べていたらタイミングよく購入できたから、それをさよりに見せた。……さよりの返答ときたら、先述通り「え?心霊スポットっすか?」だ。仕事じゃねぇ。取材じゃねぇ。
普通恋人からテーマパークのチケットを渡されたらデートだと思うのでは無いのか?確かに取材の為いわく付きの場所にさよりを誘うことはあるが、仕事とデートの区別くらいつけ。そういうところだ、藍堂さより。

「だって三刀屋さんってデート誘うにしても遊園地なんて選ばそうなんすもん。それならジェットコースターで死人が出てるとかお化け屋敷にマジモンが出るとか考えるのが普通じゃないっすか?」
「お前が」
「わたしが?」
「お前が、喜ぶと思って」

ぼそ、と呟けばさよりは目を見開いた後にじわじわと顔を赤らめる。何がそんなに照れることがあるんだ。俺としては喜ばしいが、こんなことを言わされて恥ずかしいのは俺の方だ。

「……さよが笑ってる顔とか、さよが楽しんでる姿を見たかったんだよ。いや、まあ心霊スポットでもお前は楽しそうだが、……たまには怪異の危険がないところで気持ち的に楽でいたいだろ?」
「ほら三刀屋さん、藍堂さよりが好きじゃないっすか。わたしがいるから機嫌直してくださいよ」
「もうその件は終わった」
「いだい!」

右拳でさよりの頭を1発殴っておいて、俺はため息をついた。さよりは涙目で見上げながら俺を睨んでいるが、困ったことにまるで怖くない。

「うう……DV彼氏って言うんすよ、こういうの。それで、いつ行くんすか……?」
「次の休み」
「明日じゃん……」
「どうせ暇だろ?」

もし予定があったとしても、それを取り消して俺を選んで欲しい……と、思いはしたもののさすがにその言葉は留めておく。我ながら独占欲が強い。ああ、独占欲が強いことは自覚している。さよりは俺のものだ。だから、他のやつに取られるのは嫌だと思うのは普通のことだろう。
できる限り、さよりの予定は俺で埋めておきたい。仕事がある時はこうして家に呼ぶことが出来るが、仕事がなければ俺の知らない時間をさよりは過ごしている。当たり前かもしれないが。さよりのシフトを毎日入れるなんて暴挙もさすがに行えない。学生バイトとして適正なシフトを作らなければいけない。俺の知らない時間が増える、俺の知らない藍堂さよりが増える。それが嫌だ、と漠然と思う。
さよりは俺のそんな考えを知ってか知らずか、「三刀屋さんって束縛する系っすか?」と頭を掻くような動作をして苦笑した。

「まあ、わたしもあんたの傍に居るのが当たり前になってきてるからいいんすけど……普通に友達との予定が入っちゃうこともありますから」
「……そうだな」
「だから、急なんかじゃなくて予め教えといて下さいよ。そしたら、絶対に三刀屋さんとの予定しか入れませんから」
「……シフトで空いてるところ全部俺との予定にしろ」
「暴君かよ。友達いるっつってんのが聞こえねーんすか?」

さよりは困ったように笑って、俺の隣に寄り添う。

「年中無休で三刀屋さんに尽くしてたらそりゃ奥さんっすよ」
「いいな、それ。さよ、結婚するか」

さよりはあまり美味しくない食事をとった時のように、なんとも言えない顔をした。いずれするのだからいつプロポーズしても、いつ結婚しても結局同じだとは思っていたが、どうやらさよりは違うらしい。隣からは、40点、という言葉が聞こえてきた。

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