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三刀屋真司の脳内会議。

藍堂さよりが好きだ。藍堂さよりを女として意識している。
今までオカルトにしか興味がなかったから、そういった男女関係のあれそれには深く関わってこなかったし、他人の女に時間を使うのならオカルトについて調べていた方が有意義だと思っていた。まさかこの歳になって本気で好きな女が出来るとは思っていなかった。しかも妹みたいに可愛がっていた女だ。てっきり養護や庇護の感情だけだと思っていたら、そうではなかった。
藍堂さよりと居ると、心がとても楽だ。藍堂さよりが居ると、呼吸がしやすい。だから藍堂さよりと、ずっと一緒にいたいと思った。しかし、なまじこんな歳まで異性関係を放棄していたものだからどうしたらいいのかが分からない。改まってすきだ、と言うのも何かおかしい気がする。そもそも俺から言うのは何だか照れくさい、言いたくない。出来れば、さよの方から言って欲しい。俺はさよが好きだが、さよの方は俺をどう思っているのか分からない。だから、さよが俺の事を好きだと言ってくれれば俺は喜んで返事をするだろう。俺も藍堂さよりのことが好きだと。大切な人だと。
嫌われてはいないだろう。むしろ好かれている方だと思う。信頼されている方だと思う。
ある日、さよをその時の勢いで自宅のマンションに連れて帰ってきてしまったことがあるが、……さよはそれからも普通に俺と接している。何度も何度も家に連れ込んで泊まらせて、寝床を共にしているが、さよが俺を嫌悪して軽蔑するとこはなかった。だからきっと、嫌われていないはずだ、好かれているはずだ。後は、さよが俺に一言教えてくれればいい。一言でいい、簡単でいい。疑問形でもいい。三刀屋さんのことが好きかもしれないと。そんな取っ掛りがあれば、俺は話を大きくするだろう。俺はオカルトの記者だ、事柄を大袈裟に表現するのには慣れている。

「なぁ、さよ」
「はぁい、なんすか?」

俺の足の間にすっぽりと収まったさよからは、俺と同じシャンプーの匂いがする。服装も俺が貸したシャツ1枚というあられの無い姿だが、これはこれで俺を信用しているというサインのようにも見えて、無性に嬉しくなる。何より、今のさよは全部が俺のものに包まれていて、まるで付き合っている彼女のようだから、余計に口元が緩む。今の俺たちの関係を言葉にするのなら、付き合っている訳では無い、だろう。俺もさよも、お互いに明確な好意を伝えていないから。

「俺は前に聞いたな、オカルトの仕事に関わって厄介事に巻き込まれるならこんな仕事なんて辞めるかって」
「ああ、言ってましたね」
「さよは将来的にはどうするんだ?うちで働き続けるのか?」
「んー……そっすねぇ、三刀屋さんと一緒にいるの、なんていうか、心地いいっすからね。なんか、慣れちゃいましたよ、三刀屋さんの家で三刀屋さんと一緒にこうやってくっついてるのも」
「……ならお前は、ずっと俺の傍にいるのか?」
「んー三刀屋さん次第?三刀屋さん職権濫用するしパワハラするんですもんー」

けらけらと軽口を叩くさよは、冗談と分かるくらいの声音で言うと、俺に甘えてくるように身を寄せていた。その様は愛らしい恋人のようだったが、ああ、耐えなければいけない。ここで手を出してしまえば、さよからの信頼を失いかねないだろうから。俺がさよに手を出すとすれば、それは明確な好意の言葉を交わした瞬間だ。
俺と藍堂さよりは、まだ恋人同士ではないのだから。

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