パルフォン | ナノ

20時の恋人

俺はしがないレンタルビデオ屋の店員だ。趣味及び特技は常連客にぴったりなあだ名をつけること。俺のつけたあだ名は瞬く間にフロアで流行してくれる。

「あ、今日も来ましたよ本怖カップル」

最近つけたあだ名の常連客はカップルだ。大体夜の20時から21時くらいにやってきて、本当にあった怖い映像系のDVDを10本くらいまとめて借りていく。なので、本怖カップル。シンプルイズザベストだ。
彼女の方は猫耳を摸したキャップを被っており、美人とも愛らしいとも取れる見た目をしているのだが、彼氏の方はとにかく人相が悪い。しかもチャイナシャツにスカジャンと謎のファッションセンスをしている。極めつけは、なんと左腕を誰も見た事がないのだ。基本的に右手は彼女と手を繋いでいるのだが、左手というか、左腕の袖は、いつも何も無いように揺れている。彼氏、なんかヤバい職業なんじゃないかと勘繰ったりしてみたものの、答えは返却業務をしていた時に明らかとなった。

「三刀屋さんの記事っていつも評判いいっすよねぇ、わたしのと何が違うんすか。わたしだって熱意はあるんすけど」
「お前の記事はマニア向けなんだよ。知識が前提になってて、内輪ノリな連中にはウケるがライト層は初めの方で読むのをやめる。俺たちが書いてるのは記事なんだから知らねぇやつにも理解できるように書くのが重要ってことだな」
「めっちゃ正論じゃないですか。はー、言われてみれば確かにっすね」

聞こえてきた会話から察するに、どうやら2人はライターのような仕事をしているらしい。おそらく彼氏が上司で彼女が部下。職場恋愛かよ、羨ましい、と俺は思わず顔を歪めた。

「お、さよ。お前の好きな巻あったぞ」
「あっ、本当っすか!じゃあそれがいいっす!」
「さよは水場系の心霊映像好きだな……怖くならないのか?うちの職場にもいるだろ、こういうの見た後にひとりでトイレ行けないとか、ひとりで風呂入れないとか」
「それ、三刀屋さんがわたしにそうなって欲しいとかでなく?」
「……」
「あ、図星だ!この、むっつり!」
「うるせぇ」

じゃれ合うような会話がホラー映像コーナーに響く。俺は目の前のおぞましい霊のような表情にならないように耐えていた。褒められるべきだ。

「んー。新作も出てるはずだったんすけど、やっぱり新しいやつは先に借りられてますねぇ」
「そうか、……あれの、……って映像が、マジもんって噂があったから早いところ見てネタにしたかったんだけどな」
「他のビデオ屋も寄ります?」
「いや、いい。早く帰りてぇ」
「りょーかいです」

本怖カップルはいつも通り本当にあった怖い映像系のDVDを10本ほどカゴに入れて、セルフレジの方へ向かっていった。楽しそうに顔を見合わせて話している姿は、相思相愛のカップルの姿そのものだった。

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