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とある新人ライターのレポ

最近CULTOに入社した新人ライターが事務所にやってくると、事務所はいつもよりも静まり返っていて重々しい空気が流れていた。何があったのかと事務所内を見渡せば、隅の方で仏頂面を浮かべている編集長三刀屋とバイトであるさよりが睨み合っているのが確認できた。思わず、えっと声が出た。CULTOに入社してまだ日は浅いが、三刀屋とさよりのコンビは得意としているジャンルが同じ事もあって仲睦まじく談笑している姿をよく見ていたし、相性が良いとも思っていたものだから。

「あ、あの……三刀屋さんとさよちゃんどうしたんですか……?」

新人は好奇心を抑えきれず、明らかに三刀屋とさよりから距離を取っている編集部のひとりを捕まえて小声で尋ねる。編集部の先輩は明らかに面倒くさそうな顔をしていたが、あーだのうーだの唸ってから耳打ちしてきた。

「痴話喧嘩だよ、痴話喧嘩」
「ち、痴話喧嘩……?」

あんな今にも殴り合いが起こりそうな雰囲気の痴話喧嘩があってたまるか。というか、ふたりはそういう関係だったのかと邪推してしまう。からかわれているかもしれないが。
先輩ライターは「たまにあることだから」と付け加えて仕事に戻ってしまう。新人は重苦しい空気に慣れないままデスクに着くが、やはり気になってしまうのか三刀屋たちの方に向けて聞き耳を立てた。

「何か言い訳はあるか?」
「言い訳なんかないっすけど……三刀屋さんが悪いなあって」
「ああっ?」

聞かなければよかったと新人は少し後悔する。そこそこ真剣なトーンでやり合っているじゃないか。なんの口論だろうか、三刀屋が怒るようなことが意外と想像ができない。三刀屋からの電話を間違えて切った時も、記事を落としてしまった時も新人が想像しているほど怒られたことはなく、「次から気をつけろよ」とあっさりしているものだった。そんな三刀屋を怒らすなんてあのバイトは何をやらかしたんだ、と呆れてしまう。

「いやだって……元々わたしにくれる予定のプリンだったんでしょう?わたしが食べたんだから一緒じゃないですか」

プリン。あんな殺伐とした空間からはなんとも不似合いな言葉が出てきた。

「お前な。俺はさよが喜ぶと思って買ってきたんだよ」
「はい、めっちゃ美味かったすよ」
「俺の前で食えよ」
「めんどくせえ人っすね……」

新人の表情が思わず真顔になる。よく分からないが、なんとなく三刀屋の不機嫌な理由が分かった気がして、思わず先ほど話していた先輩ライターの方に目を向ける。彼は呆れたように、「だからただの痴話喧嘩って言っただろ」と表情で訴えていた。

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