パルフォン | ナノ

キューピッドなんて眉唾物

※みんとちゃんが無事※

「さよりちゃんって言うんだね!さよちゃん、って呼んでいい?」
「は、はい……お好きに……」

CULTOの客間に通された清楚感のある女性を目の前に、わたしは未知との遭遇を味わっている。このキラキラとしたお日様みたいないい匂いのする女の人は、三刀屋さんの妹さんである三刀屋真衣さん。そう、かつてパルフォン様に連れていかれたはずのみんとさん本人である。詳細は長くなるので割愛するが、戻ってきたのだ。この世に。三刀屋さんの腕は戻ってこなかったが、みんとさんは戻ってきたのだ。
そして、戻ってきてからのみんとさんはCULTOでのんびりと過ごしていることが多い。三刀屋さんと一緒にいたいのだろうなぁと思っていたのだが、客間にいる時に相手をしているのは基本的にわたしだ。どうやら三刀屋さんも三刀屋さんで数年ぶりに会う妹さんとどう接したらいいか分からないらしい。わたしも分からん、上司の妹さんと2人きりにされる気持ちを考えて欲しい。

「さよちゃんってどこの大学なの?絢瀬大学じゃないよね?あっ、私の方が1個お姉さんだけど、敬語とかなくっても大丈夫だからねっ、もうトモダチだからっ」

にこにことして愛嬌のあるみんとさんは三刀屋さんの妹さんとは思えないくらい可愛らしくて人相がいい。本当に兄妹かと疑ってしまうが、赤混じりのお日様みたいな瞳に見つめられるとどことなく三刀屋さんの面影を感じる。

「お兄ちゃんからさよちゃんのことは少し聞いてたんだけど、こうして話すのは初めてだね……えへへ」
「三刀屋さんがわたしのこと話してるんすか……?一体どんな陰口を」
「陰口なんてっ、お兄ちゃん、さよちゃんのこと本当に好きなんだなぁて分かって、なんだか嬉しくなっちゃったよ」
「……はいぃぃ?」
「私が小学校の頃にお兄ちゃんは家を出ていったんだけど……それまで彼女さんがいたとかそういう話聞いた事なかったから、さよちゃんのことを聞いて本当に安心したんだよ」
「ま、待て、待たれてください。話がよく……」

わたしは愛想良く笑うが、その笑みが引き攣っていないか心配になった。みんとさんの言っている内容が、よく分からなくて。三刀屋さんは一体どんなことをみんとさんに告げたのだ。どうやらみんとさんはわたしと三刀屋さんがお付き合いしていると勘違いしている。勘違い、うん、どうだろう。確かにわたしは三刀屋さんの家に何度も連れ込まれているし何度も泊まっているし寝床も一緒にしているけれど、別に付き合ってはいないのだ。たぶん、好き合ってはいるのかもしれないけれど、明確に付き合っているとお互いに言葉にしていない曖昧な関係。

「?どうしたの、さよちゃん」
「あ、あのう、言い辛いんですけどわたしと三刀屋さんは……」
「さよ、ちょっといいか」
「三刀屋さーん?」

わたしの三刀屋さんの関係についての誤解を解こうとした瞬間に、客間に入ってきたのは三刀屋さんだった。どうやら仕事の話らしく、みんとさんの方に向かって「ちょっとさよを借りるぞ」なんて言っている。みんとさんはのんびりしているから気にしないでと言うように微笑んでいた。微笑まないでくれ、送り出さないでくれ、まず先に訂正させてくれ。
わたしの願いも虚しく、わたしは三刀屋さんに首根っこを掴まれて客間から退室させられた。わたしはよく三刀屋さんに連行される。連れ込まれたのは事務所の奥の書庫だった。基本的に三刀屋さんしか入らないような場所だからか、ここは本と埃だけの部屋だ。不必要なものは何も無い。

「さよ、この前調べてもらった電話ボックスについての都市伝説なんだけどな、あれの元ネタの文献って」
「あーあの三刀屋さん、仕事の話遮って悪いんすけど、ちょっといいっすか?」
「……ああ?」

さすがに仕事の話を遮るのはどうかとも思ったが、こんなもやもやとした気持ちで仕事をするのも無理がある。三刀屋さんはあからさまに不機嫌そうに眉間に皺を寄せたが、ひとまずはわたしの話を聞いてくれるらしい。

「三刀屋さん、みんとさんにわたしとの関係どう説明してるんです?みんとさん、完全にあらぬ誤解をしてますけど」
「あらぬ誤解」
「だから!その!わたしと三刀屋さんが付き合ってるっていう!あらぬ誤解!」
「……あー、それか、ああ、……そうか……」

思い当たるところがあるのか、三刀屋さんは分かりやすく表情を歪めて目線を逸らした。バツが悪そうにしているのが窺えるのを見ると、やはりみんとさんには格好でもつけているのか、彼女がいるなんて言ってしまったのかもしれない。

「いや、まあ……それは、あれだ」
「あれってなんです」
「お前が俺のことを好きって言えば事実になるから順番は変わってもいいかと思ってな」
「いや何も分からないですが!?」
「お前俺のこと好きだろ?」
「どんだけ自分に自信があるんすか!?場合によっちゃセクハラで訴えられますからね!」

わたしはまず、ここで行動を間違えたのだろう。
じ、と。視線を感じる。三刀屋さんの視線だ。目を細めてわたしの視線を捉える三刀屋さんは、めぼしい企画の材料を見つけた時みたいに鋭い目付きをしていた。要するに、獲物を見つけた時の瞳だ。

「今否定しなかったな」

いつもよりワントーン低めの声に、わたしは引きつった笑みを浮かべる。あんたの行為を否定しなかったのだから、もっと嬉しそうにしてくれ、そんな今にも襲いかかってきそうな猛獣の雰囲気を出さないでくれ。

「みんとさんになんて説明してたのか言うのが先っすよ!」
「俺とさよは世間的な言葉で言えば付き合ってるって説明してる」
「間違ってねぇ説明してますね!大人って汚い!」

わたしの反応ににこり、と笑う三刀屋さんの笑みは、やはり人相の悪さが出ている。妹さんの天使のような笑い方とは大違いだ。けれど、わたしが見慣れているのはこっちの、悪魔のような笑みの方だった。

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