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あなただったから笑えたんだよ

三刀屋さんは結構言葉足らずなところがある。口下手という訳ではないだろうに、いつも「これくらいなら言わなくてもいいだろう」と思っている節がある。言わなくても分かるだろう、言わなくても伝わるだろうという驕りがある。そんなんだから職場の人たちに三刀屋さんは冷めている、だなんて人物像を貼り付けられるのだ。

「三刀屋さんってあんまりわたしのどこが好きとか言わないっすよねえ。結局好きって言ってくれたのって告白してくれた時だけじゃないっすか?」
「あ?」

三刀屋さんといつも通り外食にやってきたわたしはオレンジジュースを飲みながらなんでもないことのように言う。目の前でただひたすらに肉を焼いてはわたしの方の受け皿に置いていく三刀屋さんは眉間にしわを寄せながら怪訝そうな顔をした。何を言っているんだお前は、と言わんばかりの表情だ。

「どこが好きって。さよが好きなんだが」
「いやそうじゃなくて」

ことらが尋ねれば恥ずかしげもなく答えてくれる所を見ると、三刀屋さんは別に話すのが億劫という訳ではないのだなと苦笑する。わたしの苦笑を得てか、三刀屋さんは少し考えた後にぽそりと呟いた。

「顔とか」
「顔!?」

そこそこ長考していたにも関わらず、三刀屋さんから出てきた回答にわたしは戸惑う。勝手なイメージだったのだが、てっきり三刀屋さんは、もっとこう、内面から来ると思っていたから、まさか外見が先に来るとは思っていなかった。わたしは思わず自分の顔をぺたぺたと触る。

「さよは素材が良いだろ。そんなトンチンカンな帽子や服装じゃなかったらもっと男から言い寄られていただろうに」
「あっ、失礼!ほっといてくださーい、わたしは好きでこの恰好してるんで!」
「まあ、そうだな……その恰好のおかげでさよに好意を持つ奴が減ってるのかと思えば喜ばしいか。あんまり肩とか脚とか出してんのは感心しねえけど」
「あんたわたしのお母さんかよ」
「いいや、彼氏だ」

平然と答える三刀屋さんにわたしはなんだか悔しくなる。歯ぎしりをする代わりに三刀屋さんが先ほどから焼いてくれているお肉を咀嚼していく。めっちゃ美味しい。人のお金で食べるお肉は美味しいし、人に焼いてもらったお肉は美味しい。三刀屋さんが焼いてくれたものだから余計に美味しい気がする。三刀屋さんは料理上手というか、調理を凝る人だから。
美味しいお肉を食べていたら悔しいと思っていた気持ちも浄化していき、幸福感に包まれていくような感覚になる。我ながら単純だとは思うが、美味しいものは人を幸せにしてくれるのだ。
お肉を食べながらわたしは頬を緩ませる。それを三刀屋さんはじい、と見つめていた。

「そうやって」
「ん?」

その声に顔を上げてみれば、三刀屋さんは優しい顔をしてこちらを見つめている。三刀屋さんにもそんな顔ができる表情筋があったのかと思ってしまうのは、ありのままを直視してしまえば絶対に照れてしまうからだ。恥ずかしくなる。そして、照れたわたしを見て、どうせ三刀屋さんはにやにやとしながらからかってくるに違いないのだ。わたしが照れるのを我慢している最中にも、三刀屋さんは優しい顔をしながら続ける。

「そうやって、馬鹿みたいに幸せそうに笑ってる時のさよの顔が一番好きなんだよ」

そう言いながら三刀屋さんは紙ナプキンを手に持って、それでわたしの口元を拭う。どうやら焼肉のタレが口の端についてしまっていたらしい。

「こんな仕事をしてたら、普通の奴よりも理不尽に巻き込まれることが多い。家族が消えたりだとか、腕を失ったりだとかな」
「……説得力が違いますね」
「でもお前はそんな理不尽を目の当たりにしても、巻き込まれても、お前は此処に残ってくれるって笑ってたからな。あんなことに巻き込まれたらさすがのお前でも辞めるかと思ったんだが」
「だって、オカルトのこと好きですし……この仕事も好きっすから」
「ああ。さより。お前のそういうところに俺は心が軽くなったんだよ。人生なんて理不尽の連続だって思ってたが、お前みたいなやつがいるならこの人生も捨てたもんじゃないなと思った。だから、お前の顔を見ると安心する」

恥ずかしがる様子もなく三刀屋さんは言葉を重ねていく。どうして。どうして三刀屋さんはそういうことをさらりと言えてしまうのだ。普段は言葉足らずで何も言ってくれないくせに。

「だから、ずっとそうやって、どうしようもなく幸せだって笑い続けてくれよ。さよ。お前の馬鹿みたいに幸せそうな顔が好きだから」

三刀屋さんはまたお肉を焼き始めて、焼き上がったものをわたしの皿に置いていく。先ほどの会話などなかったかのように三刀屋さんは「遠慮せず食えよ」と言う。その表情はいつものように人相が悪かったが、どことなく柔らかさを感じた。

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