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淡白で質素な生活

三刀屋さんは元々ふと思い立った時に凝った料理を作る人だったが、最近その頻度が高くなっているような気がする。夕飯は変わらず外食の方が多いが、朝ごはんは毎回用意してもらっているし、「これ持っていけ」と弁当を渡されることもほぼ毎日だ。三刀屋さんの家で生活することが増えてから、3食欠かさず食事をしている。
朝はトーストとサラダとベーコンもしくはソーセージなどが多くて、そんなに重くない。三刀屋さんは簡単なものだと謙遜していたが、独りだとまともな朝食どころか食事をしないわたしへの嫌味かと思った。三刀屋さんは料理を変に凝る人だから簡単なんて言えてしまうのだ。
今食べているお弁当だって、一見シンプルなように見えて彩りや栄養バランスがしっかりとしている。気になってしまって、スマホ片手に材料や料理名を調べて含まれている栄養だとか、食べ合わせだとか、推定カロリーだとか、そういうものを調べては、なんて考えられたお弁当なんですかと感嘆の息を零す。きっとこういうのを、料理は愛情というのだろう。あれは、概念としての愛情だけではなく料理にかける手間暇だとかも含まれるから。
三刀屋さんがこうしてわたしにお弁当を渡してくるのは、きっと食生活に気を遣えと訴えてきているからだろう。三刀屋さんだけには言われたかない、と言いたいところだが、わたしが食事をする時に三刀屋さんも一緒に食事をするから最近では少食だとか偏食だとかの食生活での不摂生は何も言えなくなってきている。いや、いい事なのだけれど。
今日も愛妻弁当ならぬ愛夫弁当を綺麗に食べ終えたわたしは、三刀屋さんのマンションに帰るとそれを三刀屋さんに渡す。三刀屋さんはら朝よりも軽くなった弁当箱を受け取ると嬉しそうに口角を上げる。

「美味かったか?」
「三刀屋さんのごはんはいつも美味しいっすよ」

それを聞いた三刀屋さんは更に嬉しそうに表情を緩ませる。人相は悪いが、こういう時の優しい顔を見ると、ああ、善良な人だなぁと思う。

「ねぇ、三刀屋さん」
「なんだ?」
「明日からわたしもお弁当作りますよ」
「は?」

わたしの言葉を聞いた瞬間、三刀屋さんはいつも通り人相の悪い顔に戻る。何でそんなに沸点が低いんだ。まるで俺のメシが食えねぇのかと言いたげな顔をしていることから、恐らく明日からはわたしが自分で自分の弁当を作るだとでも解釈したのだろう。早とちりだ、勘違いだ。わたしは鋭い視線に苦笑しながらぶんぶんと首を横に振る。

「いや、別にわたしのお弁当を自分で作るって話じゃないんすけど!わたしも、三刀屋さんにお弁当作ってあげようかなって話っすよ!」
「……さよが?俺に?」
「三刀屋さんほど美味しくも凝ってもないっすけどね。でも人並みに料理はできますし、不味くはないと思いますよ。まあ、要らないならいいっすけど」
「いる」
「即答じゃないすか」

三刀屋さんの変わり身の速さにわたしは曖昧に笑いながらも、それでも嬉しくなって気合いが入る。わたしだって、三刀屋さんの食生活を気にかけてはいるのだ、これでも。三刀屋さんの生活の改善のお手伝いができればなぁ、なんて。そんなことを考えながら、わたしは台所で洗い物をする三刀屋さんの隣に並んだ。

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