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錯綜システマティック



好きだと言えば、好きだと返してくれる。
愛してると言えば、愛してると返してくれる。
言葉には言葉を返され、行動には行動を返される。
与えられたら与えられたら分だけ。
返されたら返された分だけ。

「記者女さん」

ああ、また。
言葉と言葉を交えて、行動と行動を交わらせる。
電話男さんに呼ばれた私は「なぁに」と反応をする。
応えられた事を純粋に喜ぶかのように、彼は笑った。

「呼んでみただけ」

神経質な笑いとも、意地悪な笑いとも、どれとも違う。
悪戯を働いた子供のような無邪気な笑みに近いとも思ったが、彼は果たしてそんな無邪気な性質を持っていただろうか。
男は幾つになっても心は少年だとは云うが、彼は聡明で取捨選択の出来る大人だ。

「子供みたいな事をするのね」

くすくすと私も笑った。
何だかんだ言って、彼の行動に私は弱い。
惚れた弱味、とでも言えばいいのだろうか。
それが一番近い表現な気もするが、はっきりと惚れているだのと使うのは癪に障るような気もする。
彼が好き、というのは紛れのない真実だ。
ただ、それを素直に認めるのは……何というか……悔しい。

「君だから甘えてるんだ」
「嬉しい事言うのね?」
「本当に嬉しいと思ってる?」
「思ってる思ってる」

最初に好きになってくれたのは、彼の方だった。
告白をしてきたのは、彼の方だった。
こんな私のどこが好きになったのか……。
私にはさっぱり理解できなかったし、私は彼の事をどう頑張っても友人としか思えなかったから、恋人になるだなんて全く想像もつかなかった。
だから、最初は断ったはずなのだ。
私では貴方の想いに応えられる程の感情を持っていないと。
「それでもいい」と言われたのは、私にとっては衝撃以外の何物でもない。
それまで私は、普通の人間の愛情というのは求められたら求め返し、与えられたら与え返しの交換条件が満たされた、所謂需要と供給の関係に近いものだと考えていた。
彼が打ち出した答えは見返りを求めない、人間としてはある意味以上な無償の愛に等しいものだ。
しかし、彼は「俺はとても人間的だよ」と訂正を入れておくのも忘れなかった。
「いつか俺の想いに応えてくれればそれでいいから」と。
その言葉を聞いて、ああ確かに彼は人間的だったと安心したのを、今でも覚えている。
そうして私は彼の願い通り、彼の告白からいくらか経った後で彼の想いに応えてしまった。
好きだと言えば、好きだと返してくれる。
愛してると言えば、愛してると返してくれる。
言葉には言葉を返され、行動には行動を返される。
与えられたら与えられたら分だけ。
返されたら返された分だけ。
私と彼は……いや、私は、どこにでもいるような恋人同士のやりとりを出来るにまで成長していた。
今まで恋人が出来なかったなんて嘘のように、自然体のままでいられた。
まあ、もしかしたらそう思っているだけで実際には彼にリードされている部分が大きいのかもしれない。

「私、多分貴方が考えている以上に貴方の事が好きなのよ?」

今まで、恋愛なんて面倒くさい事だとばかり勝手に思っていた。
今まで、恋人なんて面倒くさいものだとばかり勝手に思っていた。
正直その考えは未だ覆されないが、しかし明らかな変化も見せている。

「貴方の事、永遠に好きよ」

永遠に、だなんて。
そんなお伽噺のような言葉が出てきてしまうなんて。
物語に永遠などはないし、いつだってめでたしめでたしで途切れてしまうくせに。
彼の事が好きだと思うほどに彼の事が好きだと言う程に、私はつい先程よりも彼の事を好きになっている。
単純過ぎる。
まるで救いようのない。
恋をすると人は馬鹿になると云うが、まさしくその通りだった。

「永遠だって?君らしくもない!」

いつも通りの口調に、いつも通りの調子の癖に、彼はどこか嬉しそうにしている。
彼はにやにやとしていて、私はそれを直視出来ずにいる。
彼が喜んでいるのは嬉しいが、どこか照れ臭くて見れないのだ。

「なぁなぁ、記者女さん」
「何かしら、電話男さん」
「こっち向いてくれよ」
「丁重にお断りするわ」
「つれない」
「そうかも」

彼が私の事を見ている……、視線で伝わる。
私は目が合ってたまるかとどこか意固地になりながら、彼から顔を逸らし続ける。

「おい、なあって。ヴェスナってば」

甘えたような声。
縋るような体温。
背中から覆い被さるように抱き締められて、私は震える。
馴れない行動だからではない。
もう慣れた行動のはずだ。
ならば何故震えているのだろうか。
簡単だ。
私がただ、悦んでいるだけなのだ。
……ああもう、何というか。

「……なぁに」

背中から抱き締められながら。
背中から回された腕に触れながら。
私は彼の声に答える。
彼はとても嬉しそうに笑い声を上げた。

「呼んでみただけ。でも、それだけじゃあんまりだな」

首筋に彼の顔が埋まる。
くすぐったくて、思わず身を捩るが彼が離してくれる気配はない。
むしろ、私を拘束する力は余計に強くなった気がする。

「ヴェスナ、俺も君が好きだよ。君の事、永遠に好きだよ」

ここで、嘘つきと笑う事が出来たのなら。
お伽話は全て綺麗な布で上手にくるまれて、甘い砂糖で巧くコーティングされて、偽物だらけのめでたしめでたしだと知っているはずなのに。
それを真実であったらどんなに素敵だろうと無垢で無知な少女らしい事を考えてしまう。
もう、無垢でも無知でもないし、少女でもないのに。
おかしな気分だ。

「ヴェスナは甘いものは好きか?」
「恋人の好みくらい覚えたらどうなの?」
「ああ、そうか。じゃあ君は甘いものは好きだな。俺は君の恋人だから君の事はちゃあんと分かってる」
「相手を理解出来てるなんて傲慢な人」
「こんな俺が、君は好きだろ?」

それではまるで、私が酷く性格の悪い男が好きみたいではないか。
……まあ、否定はしない。
実際私は男運がない。

「甘い時間を過ごそうか?俺の大切な君」
「甘過ぎて吐き気がしそうだわ」
「なら程々に。苦いものも一緒にしようか」
「……お伽噺みたくはいかないものよね」
「……?何か言ったか?」
「いいえ、何も」

私はくすくすと笑いながらようやく彼の方を見た。
先程まで少年のような無邪気さを醸し出していたくせに、ああ、やはり彼はただの大人か。
彼に与えられる熱は永遠を謳うお伽噺にしてはとても衝動的で刹那的で、しかし現実的で、私はこちらの方が好きだと思った。

「死ぬまで、愛してるよ。俺のヴェスナ」

彼の言葉の魅力と云ったら。
このまま彼に全てを委ねてしまおうだなんて狂ってしまう程だ。
ああ、何て素敵な言葉の交差だろうか。
それこそ、永遠に続けていたいと願ってしまった。


錯綜システマティック
(お伽噺は嘘だらけで綺麗に固められていた)
(現実は真実だらけで穢れて捨てられていた)


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