FNAF | ナノ

Hysteria

分かりきっていた事だ。
解りきってた事だ。
自分の手がどれだけ汚れていて、それを望んだのが他でもない自分自身であるのだという事くらい。
常に自分は会社の為に店の為に、それから人形の為にと行動を起こしてきた。
それが例え幼い子供を殺める事に繋がろうとも、それも刺激的なキャリアのひとつだと腹を括ってしまえば、嗚呼、犠牲者はすっかり増えていた。
自分の手のひらはすっかり汚れきってきた。
孤独なままベッドに身を沈めれば静寂の中から、かつて殺した子供達の嘆く声が機械人形を通して聞こえてくるような気がした。
機械人形の声など、所詮は雑音でしかない。
気にするな。
気にするな。
時間はこちらが意識しなくても進んでくれるのだ。
時間は自然と解決へと物事を運んでくれるのだ。
こちらがそれを望んでいないとしても、勝手に時間は進んでいって、その罪すらも遠い日の記憶として片付けてくれる。
あんなにこびりついていた手のひらの赤はすっかり消え去り、積み上げたキャリアは順調。

「ねぇ聞いて頂戴。私ね、子供の頃はとても可愛いお嬢さんだったのよ」
「……急に何だ?え?自慢?」
「そう。自慢。……っていうのは勿論冗談で。……私って、多分自覚がなかっただけで今も昔も変わっていないのよ。子供の頃から人形を抱き締めては離さないような娘だったわ。ねぇ、可愛らしいでしょう。子供の特権よ」
「……ああ、それがいい歳になった今でもまさか続いているなんてご両親は知らないんだろうなぁ」
「嘆きそうだわ、さすがの両親も。でも仕方ないじゃない。人形が好きなんだもの。愛しているんだもの」

所謂性癖と呼ばれるそれを、病だと呼ばれてしまうそれを、果たして過ちだとしてしまう事はできるのだろうか。
れっきとした病のひとつに数えられてはいるが、傷や痣とは違うし、軌道修正がかかったとしても彼女の性質とはずっと変わらないような気がする。
彼女のそれを過ちとしたところで、自分の過ちはそれ以外にはならず、変わらないままで自分の側で嘆きを叫び続けるだけなのだろうが。
現実から逃れようと、自分に嘘を言い聞かせていた。
ただ今存在する嘘は全てが妄想で、唯一でしかありえないはずの真実は指をすり抜けていく。
彼女はその真実の方を求めてはいるが、すっかり色褪せてしまった傷とでも言おうか過去の罪を今更突き止める必要なんてないといい加減気付いてもらいたい。

「今日もボニーは間抜け面で愛らしいわ。素晴らしいわ。ねぇ、この店が閉店する事になったらボニーの着ぐるみ、私に頂戴よ。内部骨格は要らないから。……あ、いや、ううん、でも、ちょっとだけ欲しいかも」
「おいおい、止めてくれよ。あげる訳がないんだから。しかも内部骨格まで貰うつもりか。……手入れとか大変だぞ?」
「愛しい彼の為なら苦でもないわ」
「尽くすなぁ。妬けるよ。俺にもそこまでしてくれる?」
「貴方は別に手入れが必要な所ないじゃない。強いていうなら……うーん、そうね……、その神経質な笑い?とか?営業スマイル?とか?」
「職業病だ」
「ブラック企業」
「ご名答」

もう少し、もう少しだけ。
こんな彼女との時間を、もう少しだけ。
分かりきっている事だ。
解りきっている事だ。
真実を求める邪魔者で厄介者の新聞記者の女。
だが彼女との日々が過ぎ去る中、もう少し、もう少しだけ。
ここで夢を見させて欲しいのだ。
孤独にベッドに身を沈めるような、そんな悪夢の直前ではない、限りなく夢に近い現実を、限りなく現実に近い夢を。

「ファズベアーエンターテイメント社。正直言って頭おかしいと思うもの」
「目の前に正社員がいるのにそういう事を言うかい」
「頭おかしい」
「俺を見て言うなよ」
「だって、明らかにブラックよ。真っ黒黒よ。なのに、何も出てこないのよ。決定的なものが。私なりに頑張って調べているんだけれど、ないのよ。あなた達が起こしているはずの何かしらの問題が」
「じゃあ問題ないって事だ」
「児童行方不明事件以来、経営不振に陥ってはいるけれど……、ああ、何かしら、あの事件の犯人は捕まっている筈なのに、腑に落ちないの。ねぇ、何でかしら?」
「さぁねぇ」

自分の人生を本にした時、そのページを捲ったらきっと、全ての謎は解けていくのだろう。
腑に落ちないのは誰だってそうだ。
だって、明らかにこのピザ屋はおかしいのだから。
それでもそれを当たり前として突き通そうとするものだから、関係者からしてみたって真っ黒だ、ブラックだ。
彼女の目の前にいる自分こそが、おそらくはその鍵だ。
彼女はそれに気付く事なく、自分をただの電話番の男だと思っているものだから、バイト達の教育者だと思っているものだから。
そんなんじゃあ、青い制服に紛れた赤は見つけられないよ。

「犯人は複数かしら。それとも単独かしら」
「犯人なら捕まって審判も下された」
「子供達の死体は見つかっていないのにね」
「ああ、そうだね」
「そういえば、人形からの異臭騒ぎ、何だったのかしらね」
「何だったんだろうね」
「蘇った死体のようだって、大人が言っていたわ」
「怖い事だ」
「怖い事よ」

嗚呼、何故こんなにも大切な時間を無駄にしたのか。
今更だろう。
この薄汚い店では迷子のまま、綺麗に取り繕っていたはずの手のひらは真っ赤なまま。
この汚れた手で彼女に触れようなどと。
嗚呼、何故こんなにも大切な時間を作ってしまったのか。
今更だった。
もうどうだっていいのだと、今日こそは邪魔者を排除してやるのだと。
この汚れた手を更に彼女の血で染めようなどと。
自分が抱えている罪の深さを自覚すれば、それで救われると言うのか、馬鹿馬鹿しい。
罪を自覚すれば、自分も被害者になれると言うのか、馬鹿馬鹿しい。
まるでそれが価値のある事のように取り繕う事こそ、結局全てが同じじゃないか。

「ねぇ、電話男さん」
「なに、記者女さん」
「貴方、何を知っているの」
「何も、何も知らないよ」

毎日を頭の中で繰り返し再生する。
まるで終わりのない映画のように。


Hysteria
(結末ならばバッドエンドだと既に決まっているのだから)
(泣きながらハッピーエンドではない物語は続いていく)


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