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さびしい僕らに雨が降る

※トレイ妹設定※

ナイトレイブンカレッジに入学してからは、当然ながら実家に帰れる日は少なくなる。大型休暇のその何日かを宛がって、僅かな安息を得られるのだ。安息、といってもトレイの家には弟や妹たちがいるから、本当の意味での安息とは遠い。弟には魔法について見て欲しい見せて欲しいと強請られるし、妹にはハグや抱っこを強請られる。両親は弟妹たちをこらこらと制しながらも、ほんの少しばかり申し訳なさそうにして、店の手伝いを頼むこともある。せっかくの休暇なのに休めない、とは思わなかった。久々の家族の温度に、トレイは自然と頬を緩める。弟や妹たちの面倒を見るのは嫌いじゃない。

「にいちゃん!にいちゃん!」
「おー、どうした?」

一番懐いている妹の頭を撫でながら、トレイは笑う。この子は、自分がナイトレイブンカレッジに行き、寮暮らしになることを最後まで嫌がっていた妹だ。進学自体は祝福してくれたが、トレイと会えなくなるのは寂しいと見送りの最後まで半べそをかいていた。
きょうだいの中でも、仲の良さ……というよりもベッタリ度が高いのは彼女だろう。甘えてくる。甘え上手だ。そして分かりやすい。トレイに構ってもらえるように、トレイにやんわりと叱られるようなことをいつも目の前でする。歯磨きを最後までごねるのも、いつだってこの子だった。

「あのね、にいちゃん、髪の毛結んで!」
「おいおい、俺がいない間は自分で結んでたんじゃないのか?歯磨きも言われなくてもできてたって父さんや母さんから聞いてたんだけどなあ。兄ちゃんはお前が少しはお姉さんになったんだーって嬉しかったんだぞ?」
「それは昨日までのわたし。今日のわたしはお姉さんじゃなくって、トレイにーちゃんの妹だから!」

だから甘える権利があります!とでも言うように、妹はトレイの足の間に器用に挟まるようにして座った。ほい、と出した彼女の手には、彼女お気に入りのクラブのモチーフが付いた髪ゴムだった。
やれやれ、と肩を竦めながらも、トレイの表情は明るく、妹から髪ゴムを受け取った。妹の髪を結ぶのは久々だったが、体は覚えているもので、手際よく結んでいく。

「にいちゃん、にいちゃん。学校、楽しい?」
「うん?ああ、楽しいぞ」
「へえ〜、いいなあ。わたしもトレイにいちゃんと同じ学校に行こうかな」
「うちは男子校だぞ?それに、お前が入学する頃には俺は卒業してるよ」
「んーそっかあ、じゃあ家から通える学校が良いね。にいちゃんと一緒にいる時間が、長い方がわたし嬉しいもの」

にこにこと上機嫌に放たれたその言葉に、トレイは「そうだなあ」と曖昧に返す。兄としては、嘆くべきなのだろう。友達は、とか。彼氏は、とか。このまま兄離れしてくれなかった未来を考えると、それはそれで困りものだと思う。
しかし、彼女はまだ小さい、可愛い妹であるし、世界が広がれば自然と兄離れしていくだろう。トレイはそう呑気に構えていた。
それに、いざこの子が兄離れすることになった時、寂しがるのは他ならぬ自分かもしれない。そんな事を考えている内に、妹のエメラルド色の綺麗な髪の毛には愛らしい編み込みが出来上がっていた。


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