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頼りなくてすみません


「このノロマ!お前から殺すぞこのマヌケ!」

近くから聞こえる暴言罵倒の嵐。
他にも「馬鹿」とか「グズ……いやクズ」とか「子供の方がまだ役に立つ」とか酷いことを繰り返し言われている気がするが、私は聞こえないことにした。
だってこれ以上は私の精神が崩壊しかねない。私のライフはもうゼロなのよ。
……うん。事実ゼロになって地ベタを虫けらのように這っていたのは私です。ごめん。謝るからそんなアンドロメダ湖畔も吃驚な絶対零度の瞳で睨まないで、ニミュエちゃん。

「でも、なんだかんだ救済してくれるよね、ニミュエって。優しい優しい」
「……」
「わっ、怒った!?ごめん、ごめんなさい。ちゃんと戦うから凍らさないで!」
「……大馬鹿者が」

そっぽを向くニミュエの顔は鬼灯のように赤かったが、指摘したら今度こそ氷漬けにされるだろうから私は何も言わない。
少し離れた所でオークとゴブリンを次々と高笑いしながら吹き飛ばしていくニミュエに苦笑しつつ、私はニミュエが倒した魔物たちを救済していく。
救済した魔物たちは、本来の動物の姿を取り戻してどこかへ去っていく。

「幸せになれよー」

猫や鼠たちに手を振って、私は微笑む。
元に戻った鼠たちが猫に食されないことを私は祈るよ。いや、本気で。

「何が……幸せになれよーだ、このボケ!!」
「おおぅっ!!」

私はニミュエの魔法によって、魔物と同じように吹き飛ばされた。氷の追尾魔法だ。
……くそー、ニミュエめ。いつか同じ目に遭わせ……。

「何か言うことは」
「すみませんでした!」

無理だなー。無理だ。
ニミュエに逆らうなんてそんな恐れ多いこと私にはできないよー。
……本音を言えば、ただただ怖いだけだ。

「私は、お前が魔物を生贄にしているところを見たことがないんだが?」
「だろうねぇ。私は救済派だもん。これからも生贄にするつもりはないよ」
「…………」

ニミュエが邪悪な笑みを口元に浮かべて、両手を私の顔に近付けた。
ニミュエの指が私の頬を摘むように掴んだ。
おぅ、嫌な予感。

「貴様は……馬鹿かっ!?馬鹿だな!!ああ知っていた、お前は馬鹿だ死んでしまえくたばれこの馬鹿女ッ!!」
「ひゃーっ、にひゅへっ、いひゃいいひゃいいひゃいいぃぃぃ」

ニミュエは手加減もなく私の頬を縦縦横縦……不規則に思いっきり引っ張る。
よく考えてくれ。魔法使いの力で引っ張られているんだ。素手とはいえ、かなり痛い。
ちなみに今私が言ったのは「きゃーっ、ニミュエ、痛い痛い痛いいぃぃぃ」だ。
私がこんなに痛がっているのにも関わらず、手を離してくれる気配はない。

「私たちは!魔法使いだ!魔物を!殺すのが!私たちの!使命!だ!……分かっているのか!?」

突き飛ばすようにしてニミュエが私を解放した。
ああ痛い。ヒリヒリしてるよ。鏡とか見たら絶対真っ赤になってるよ。
両頬をさすりがら、正座をしつつ私はニミュエを見上げた。

「ちゃんと魔法使いの使命は分かってるよ。もちろん、掟もね」
「だったらちゃんと生贄にせぬか馬鹿女!」
「でも掟って破るために存在するもんじゃないですか?」
「…………」

ニミュエが再び私の頬を掴もうとして、同じ手を食らってたまるかと私は素早くかわす。
どうだっ!とニミュエを見やると、彼女は呆れたようにため息をついて、憐れむように私を見つめた。

「……お前は、打たれ強い。無駄なまでに」
「救った命からの恩恵だね」
「……逆に、お前の戦うための力は弱い。それはもう、弱い」
「気長に戦えばいいしさ」
「……私たちに必要なのは、生き残る力。魔物を殺す力だ。私たちには強い力が必要なんだよ……みょうじ」

やっぱりニミュエは優しいなと思って、私は心温まる。
なんだかんだと私のことを考えての発言だ。
いつも私に殺す殺すと物騒なこと言う癖に。
私の名前を呼んでくれたのも、私のことを心配してくれている証拠だろう。

「それでもね、私は魔物を救いたいんだよ。ニミュエ」

どんな理由があっても、たとえ魔物であっても、全てをやり直す機会を与えていいと思うんだ。
私が救済を選択し続ける理由は、再始動。
みんな平等に新たな始まりをってやつだ。

「だから私は生贄を選ばない。私が生贄を選ぶのは……どうしようもない時かな」
「……そうか」
「うん」
「……みょうじは何を言っても聞かないしな。諦めよう」

困りきったニミュエの顔……。私は好きだ。
戦いでは狂気に満ちた彼女の、本当の姿のように思えるから。

「まぁ、あまりに弱くて役立たずな場合は切り捨てる。いいな」
「……はぁい」

今のままでも強くなれる供物を探そう。もしくは合成しよう。
グールが飛び交う平原の空を眺めながら、私はそう決意した。


頼りなくてすみません
(本当に弱くてすみません……でもね、)
(軽口叩ける程度には、強いんだよ?私って)


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