金髪の腹黒少年

長い戦いになるだろう、そう覚悟していたが決着は案外あっさりとついた。

「あ"ー!もうやーめた!」

なんと向こうから諦めてくれたのだ。欲しい物は奪い取る主義なんだ、とか言っていたからてっきりもっとしつこいかと思ったのだけれど。

「別に俺はそれを分解してみたかっただけだし。そこまで欲しいわけじゃなかったんだ。ただ君があまりにもそれ持って嬉しそうだったからつい、ね。ほら、他人の物ってなんか欲しくなるじゃん?」

あははと爽やかに笑っているが言っていることは全然爽やかじゃない。小学校時代、クラスに一人はいたであろう典型的ないじめっ子である。可愛らしい容姿をしている分タチが悪い。
こいつ…それだけの事で人がゲットした物横取りしようとしたってのか。そう考えるとあの愛想の良さげな笑顔も貼り付けられただけの胡散臭いものにしか見えなくなってきた。頬を引っ張ってあの口角を無理矢理下げてやりたいところだがまぁいい。これでやっとカメラを持って帰れるのだ。ここは大人の私が大目に見ておいてやろうではないか。

いざ持ち帰らんとしたその前に、カメラの動作を一通り見てみることにした。教会に帰るまではと思ってたけれど、やっぱり我慢できない。写真家としての私が叫んでいるのだ。今すぐカメラを起動しろ、と。
ドキドキと胸の高鳴りを感じながら電源をONにした、が、

「…動かない。」

「そりゃそうだよ。だから棄てられたんじゃないの?」

今までのドキドキが一転、風船が萎むようにテンションが下がっていく。なんの反応も見せてくれないカメラにため息が漏れた。いくらカメラを勝ち取っても動いてくれなきゃ意味が無い。

あれ?もしかして動くとでも思ってた?と少年が笑った。笑ってるだけならどこかに行ってくれないかな。なんか腹立つから。

「俺、それ直せるよ」

「本当に!?」

「本当だよ。こう見えて機械強いんだ」

マジでか。願ってもない展開。是非修理をお願いしたい。どこかに行けって思ってごめん。やっぱり行かないで……いや待て。コイツは見た目は如何にも性格が良さそうに見えるが恐らく、いや確実に中身は真っ黒だ。何か良からぬことを企んでいる気がしてならない。果たしてそう易々と信じて良いものなのだろうか。
警戒する私を少年が笑い飛ばした。

「大丈夫だよ?ほら、流星街の住人は家族より強い結束があるって聞いたことない?たとえ初対面でもここに住んでる限り、俺達は家族も同然。助け合うのは当然だろ?」

笑顔を1ミリも崩すことなくペラペラと饒舌に語る少年。なんだろう、凄く良い事言ってるんだけど、この"だから早く渡せや"という有無を言わせないオーラが彼から滲み出て見えるのは私の気のせいだろうか。

「もー!!このままパクったりとかしないって!君、念を使えるんだろう?面倒だし、変な真似はしない。約束するよ。」

ここで少年は初めて笑顔以外の表情を見せた。ムスッとした顔の方があの笑顔より余程年相応に見える。
さてどうしよう。また突飛なことをされても困るし、どうせ私ではどうにも出来ないし、ダメ元で頼んでみようか。ていうかこいつも念能力者なのか。確かによく見てみれば少年の身体はオーラで包まれている。念能力者は世界でもほんの一握りしか存在しないと先生が言っていたけど、あっさり出会ってしまった。やっぱり世界は狭いのかもしれない。なら信じてみよう、この偶然を。この胡散臭い笑顔の少年を。

「じゃあ、」

お願いしようかな、と言いかけたところで私の手からカメラが消えた。慌てて顔を上げれば、カメラは少年がしっかりと掴んでいた。

「オッケー!俺は南区のシャルナーク!明日同じ時間にまたここに来てよ!」

シャルナークと名乗った彼は風のように消えていった。南区のシャルナークねぇ。南区南区…よし、覚えた。あいつ、あのままカメラパクったら地獄の底まで追いかけてやる。