体温を下さい(サソリ) | ナノ
「くっ・・・」
「・・・」
「サ、ソリ」
真正面で対峙するサソリは眉一つ動かさずに私を見ていた。首に回された傀儡の腕の力はそこまで強くなかったけれど、ガッチリと羽交い締めされていて動けない。
サソリが近くに出た。
その噂を聞いた瞬間、私は重い身体を引きずって里を飛び出していた。今や重罪人として追われているアイツが何を考えて行動しているのかは分からなかったが、いずれにしてもアイツに裁きを下すのは私でなければいけないと思った。
それが、一時でもアイツと心を通わせていた私への天命だと思った。
ところが隙を窺っていたところを背後からあえなく傀儡に拘束されてしまった。何のことはない。今も昔もサソリには何一つ敵わないのだ。敵うわけがないのだ。裁きを下すだなんて、無力な私の驕りでしかなかったのだ。
「・・・はっ・・・相変わらず見た目は変わらないんだね」
「・・・」
「サソリは、」
「男がいるんだな」
びくっ。傀儡の手が私の左手首を掴み、何度か振った。サソリの眼は薬指の指輪を捉えていた。そして色の無かった彼の大きな目が私に向けて細められた。
やばいっ・・・!
ぎゅっと目を閉じ、反射的に右手で腹部を庇った。
「・・・孕んでんのか」
えっ
予想した衝撃は無かった。
その代わり、温度の無い掌が、軋む音と共にそっと頭にのせられた。
「・・・」
目を開いた時にはもうサソリはいなくて、糸の切れた傀儡が死んだように地面に崩れ落ちていた。