宝物 | ナノ

背中へもたれ掛かって長い髪へ顔を埋めれば珍しく慌てた様子で声をあげた。

「これは大事な書類なんだぞ!間違って染みでもつけたらどうするんだ!」
「ごめんなさーい」

間一髪のところで筆と紙との接触事故は避けられたらしい。私の、謝る気なんてさらさらない謝罪に不満そう。無視することに決めたらしいネジはベタベタとくっつきまわる私に細心の注意を払ってなお仕事を再開した。きぃい…!!たしかにね、私だって子供じゃないんだもん、お仕事が大切だってことは十分心得ております。だがしかし!頭でわかるのとそれに行動が伴うのはまったく別の問題で、せっかく一週間ぶりに任務から帰ってきたんだからずーっと離れずに一緒にいたいし、触れてほしいし触れていたい。心配した分だけあったかいネジを感じてたいって思うことは…やっぱりわがままでしかないんだけど。でも今日はたんじょうびだもん。わがままくらい言ってもいいじゃない!……っていつでもわがままか。それでも好きなんだもの、わがままになるのも仕方ない。私がわがままになるのはネジ絡みのことだけだもん。

「…あと少しで終わらせるから離れてろ。文字が書けない」
「いやだ」

口ではそう言いつつも、仕事を終わらせないとネジが構ってくれないのは重々承知なので背中からははがれてあげた。代わりと言ってはなんだけど、ネジの髪を解いては編んだり、結ったり、くるくると指に巻いたりして遊ぶ。あー暇だなあ。せめて少しくらい話でもしてくれたらいいのに。ネジのいない間、私がこの家でどんなに寂しい思いをしてたか分かってるんだろうか。ああもうすぐ春だってのに今日は寒いし。居間に置いてあるこたつに入れば温かいのだけど、ネジから離れるのがいやで、そんな気持ちと裏腹にどんどん冷たくなっていく手足がくやしい。

「気が散る」
「…あっそう」

元からななめだったご機嫌がさらに傾度を増したことにより、ようやくネジがため息をつく。ここまでひねくれないとなんのアクションも起こしてくれないのも どうかと思うのですよ。おかげで私はもう拗ねて拗ねてただひたすらに三つ編みを量産していく。細くて柔らかい髪を小さく分けて、丁寧に丁寧に編んでいく。
しびれを切らしたネジがやっと話し掛けてくるけど、もう遅いもん。そう思いつつ無視できないあたりが私の弱いところだけどさ。

「冷蔵庫の上から二番目」
「…それがなに」
「行かなくていいのか」

手は止めないし、振り返りもしない。そのくせ声だけは嫌になるほど優しくて 従わざるを得ない。騙されて戻ってきたら、戸を閉められてたらどうしようとか、追い出すための都合のいいでまかせかもとか、ぐるぐる考えは巡るのに抗えないのはなんでだろう。やっぱり好きだからかな。

ちょっとブルーな気持ちで冷蔵庫を開けて、私の目に飛び込んできたのはピンクのリボンが結ばれた白い箱。騙されなかったことへの安堵と、なぜこんなものがここにあるのかという疑問で、ゆっくり恐る恐る大事に取り出して、箱を開けてみたら中にはかわいいケーキがたくさん入っていた。よくよく見れば、気になると騒いでいた新しいケーキ屋さんのロゴマーク。さっき玄関でお出迎えしたときにはこんなもの持ってなかったのに…!
急いでネジの部屋へ戻ると相変わらず黙々と仕事をこなす背中と、髪の隙間からほんのり赤く染まる耳。胸がむずむずしてうれしくて、私は背中にダイブした。


20110308 23:59
20110318 修正

小早川おめでとう(^-^)



凍華に誕生日プレゼントにもらいました\(^o^)/大人可愛いネジにときめきが!!とまらない!!!
本当にありがとうーー!!



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