宝物 | ナノ



朝、今日はいつもより早く目が覚めたので適当に身支度をして散歩に出かけた。すると偶然にも文書をたくさん抱えたコテツさんとイズモさんに会った。すれ違い様に挨拶をすると、お二人は挨拶を返してくれて、そして私を引き止めた。

「お前これ速報中の速報。ネジの上忍昇格が決まったってよ!」
「今朝、綱手様が言ってたから間違いないよ」

え。思わず口から漏れる。びっくりして心臓が止まるかと思った。ネジが上忍。いやネジの実力なら遅かれ早かれ昇格するのは間違いないとは思ってたけど、まさかこんなに早くになるとは。嬉しさや驚きやいろんなことで頭と胸がいっぱいになる。思わず顔が綻んじゃう。
普段こんな時間に散歩なんてしないししかもイズモさんとコテツさんに会えてしかもそれがネジの上忍昇格が決まった日だなんて、運命かもしれないだなんて思うとついつい顔がにやけちゃって、私はそのままお二人にお礼を言うと急いで家に引き返した。お二人の笑い声が背中に届いたけれど、今はそれすらもこの運命とも言える朝を祝福する言葉にしか聞こえなくて、私は一瞬振り返ると大きく手を振った。ああ、なんて幸せなんだろう!





「はいネジ、上忍昇格おめでとう!」

そう言ってネジの目の前に包みを突き出す。ネジは少し驚いたようにその包みをちらりと見遣って、それからまた私の顔に視線を戻すと「ありがとう」と笑ってその包みを受け取ってくれた。

「中身はなんだ?」
「えっと……気になる?」
「ああ。お前がくれたものだからな」
「……嬉しい」
「お前こそ、こんな朝早くに俺のとこに来るなんてな。……正直、凄く、」

嬉しかった。
そう言って優しげに目を細めるネジの微笑を見つめて、私は嬉しさとともに少しだけ複雑な感情が胸の内に湧き出ていることに気がついた。ネジが上忍になったことは本当嬉しいし、心から祝福したい。
でも。
でもよくよく考えてみれば、ネジが上忍になったってことは、今よりも会える時間が少なくなるということ。今よりも死の危険が高まるということ。今よりもずっとずっと、遠い存在になるということ。

「おい、」

不意に名前を呼ばれ、はっと我に返って顔を上げる。驚いて見るとすぐそこにネジの顔があって、鼓動が速まるのがわかった。
ネジは優しげに微笑んだまま私の肩に手を置いて、それからゆっくりとその手を背中に回し、私を抱き寄せてくれた。ネジの長くて綺麗な髪の毛が、くしゃりと頬に当たる。いいにおいがした。心臓の音がうるさい。

「俺は片時もお前を忘れたことなどない」
「ネ、ジ、」
「お前が里で待っていてくれると思うから、俺は今日も任務を全うすることが出来る。そして、お前の元にまた帰る為にと、頑張れる」
「、っ……」

ネジはそう言うと、私の髪の毛を、その細く長い指で撫でた。
そんなこと言われたらもう私、どうすればいいかわかんなくなるじゃない。

「……ネジには私の思ってること、何でもお見通しなんだね」
「何せ俺には白眼があるからな」
「ぷっ、」

何そのへたっぴな洒落!照れ隠しにそう言って笑って、ネジの胸から飛び出る。笑うな、と静かに動揺するネジがさっきまでとは打って変わって今度はかわいくて、どうしようもなく愛しくて、私は笑ってしまう。

「そんなに笑うなら俺にも考えがある。今ここで包みを開けてやろう」
「あ、だめだってば!ちょっと、ネジ!」

がさり。紐が解かれ、中身が姿を現す。
ネジはそれをしばらく黙って見つめると、不意にぷっと吹き出した。

「まさか上忍昇格祝いがおむすびとはな……」

散歩から帰って急ごしらえした、ネジの手に並んだ形の悪いおむすび。私は思わず頬に空気をためてしまう。私が料理作れないことくらい知ってるでしょ!と言えば「ならば何故料理を選んだんだ?」と返ってくる。
だって、だってだって。

「任務中だって修業中だって、それを食べて少しでも私を思い出してくれますように……って。でも、」

それも必要なかったみたいね。そう言って、さっきのネジの言葉を思い出しながら笑う。するとネジは微笑みを湛えたまま再び「ありがとう」と小さく言って、私の頭をぽんぽんと軽く叩いてくれた。
私はなんて馬鹿だったんだろう。
ネジはこんなにも、私の近くにいるっていうのに。

「大好きだよ、……ネジ」

そう言ってネジの顔を見つめて、熱くなる顔を隠す為に手の平で顔を覆った。俺には白眼があるから無意味だ、そんな声が聞こえた気がして、私は再び笑った。






あなたとの距離0センチ記念日



































「墓花」のちえみに相互記念にいただきました!!素敵すぎる〜!!
ちえみ本当にありがとう!




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