宝物 | ナノ
結構長く付き合ってた男と別れた。原因は向こうからの浮気してました、という突然のカミングアウト。聞いた瞬間、どうでもよくなった。だから笑顔で、私のほうから別れてやったの…にもかかわらず。

なぜか、2日経った頃になって急に寂しさと後悔の渦が押し寄せてきた。夜、街中の光が綺麗に反射されてる川をベンチに座って眺めてた時だ。

ああ、なんだかんだでいい奴だったな…カミングアウトしてくれた時、ちゃんと話を聞いてあげれば良かった。そういえば別れようって言った時、悲しそうな顔してたっけ…。


「でも今更…っ」


消してしまったアドレス。だけど頭がまだ記憶してる。だって覚えやすかったし。アイツ、馬鹿で甘えたで…浮気相手の人に迷惑かけてたりしないかな…。

さすがに帰ろうと思って立ち上がり歩き出す。すると、手すりに寄りかかり、綺麗な川を煙草を吸いながら眺めている一人の男性を見つけた。なんだかこういう場には似つかわしくないオーラを持っている。気品があるのだ。

サラサラと風に流れる茶髪。とてもスタイルがいい。スーツがよく似合ってる。…仕事にでも失敗したのかな。傷心中?


「………あ」


私の視線に気づいたのか、彼が急に振り向いた。バッチリと目が合う。明かりがあるといっても夜だ。それでも分かるくらい、綺麗な青い目。そういえば、中学の頃にも似たような青い目の奴がいたっけ。俺様でナルシストな氷帝の……。


「跡部景吾…」


そうだ、跡部景吾。彼によく似ている。ん?いや、彼のような人が世界に2人といるだろうか?むしろいないんじゃないか。そう考えると、目の前の彼はもしや…。でも世界は広いからいるかもしれない…うーん。


「お前、今俺様の名前呟いただろ」


………まさか。でもなんでこんなところに?確かにここは彼の故郷、東京だろうけど。


「おい」
「ひゃっ…」


いつの間にか、彼は目の前にまで来ていた。こんなに近くで彼を見たのは実に8年ぶりだ。私は氷帝の高等部には通わなかったから。


「ん…?お前、どこかで会ったことあるよな?」
「いえ…会ってないと思います」
「…そうか」


私は咄嗟に嘘をついた。まあどうせこの人からしたら、私なんて存在していなかったも同然だろうし。少し考え込んでいる彼に、私は話し掛けてみることにした。


「…失恋ですか?」
「アーン?」
「あ、いえ何でも」
「…そうだ、とでも言ったらお前が癒やしてくれんのか?」
「…………は?」


この人でも失恋するのか。しかし、今この人はなんて言った?お前が癒やしてくれんのか?

少し赤面し固まる私を、ニヤリと笑って見てきたかと思えば、すぐにプイッと逸らされた。その横顔は哀愁を帯びている。最初は川を見てるんだと思った。だけど、その目は川ではなくて、違うものを見てる。それが分かってしまったから、いけないと分かっていても重ねてしまった。


「私も失恋したんです」
「……………」


彼は再び私を見る。


「…もう一度聞くぜ。お前、俺と会ったことあるだろ」
「……え?さっきないって言いましたよね?」
「嘘だな」


そう言って私に背を向けて歩き出す。2、3歩歩いたところで、彼はこちらを振り向いた。私の心臓がドキドキしてる。なんで分かるの?彼の世界に、私はいなかったはずでしょ?


「名前」
「なっ…」


私の、名前…。そう、彼はハッキリと私の名前を言ったのだ。


「お前、名字名前だろ」
「………なんで…」


彼は満足そうに笑ったあと、今度は真剣な眼差しで私を見てきた。彼の瞳には魔力でもあるのか。さっきから逸らすことが出来ずにいる。


「お前は――…だ」


時が、世界が止まった気がした。

再び私に背を向け歩き出す彼。私はハッとして立ち上がり叫ぶ。


「跡部くん!」


跡部くんは一瞬立ち止まっけど、すぐにまた歩き出した。そして右手をヒラヒラと振ってくる。


「またな」


鳴り止まない鼓動。まるでドラマのヒロインになった気分だ。しばらくの間、私はその気分に浸る。…そして、最後に跡部くんが言った言葉を、信じたくなった。



初恋Lady
(お前は、俺様が初めて恋した女だ)



My mame is Forever!のMoMoから相互記念にとってもかっこいい跡部をいただきました!ありがと〜!
これからもよろしくね!
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