宝物 | ナノ





ふわり、と精巧な細工のティーカップからアールグレイの香りが漂う。ドラコはそれを手慣れた様に、優雅な仕草で持ち上げると、薄い唇を通して口内にゆっくりと流し入れた。その一連の動作をじぃ、と向かいの席で観察していた私は、目をドラコに遣りながらひたすらフィナンシェを貪っている。

この差だ、この差。私は仮にもこの優雅なドラコの彼女なのだから、こういう時にこそ今の彼みたいにおしとやかにするべきなのに、オブラートに包んだとしても私は決してそうとは言えないだろう。大方考え過ぎて変な顔でもしていたのか、先程まで紅茶を味わっていたドラコが怪訝な表情をしている。



「…どうしたんだ?名前、何かあったのか?」

「いや、ドラコって仕草が優雅で、私とは全然違うなって」

「ふうん、そんな事か」




彼女が悩んでいるというのに、ドラコはそんな事簡単だとでもいうような口調でそう発した後、ゆっくりとこれまたディテールが凝った椅子を引き、立ち上がった。そしてカツ、カツ、と靴の音を鳴らしながらこちらへ歩く彼。一体何をしようというのだろうか。私は椅子に座ったまま彼を見る。


彼は私のすぐ傍まで来て立ち止まると、私のティーカップをすい、と持ち上げ私の目の前に出してみせた。そして持ち方を私が憶えたと思う頃に、ティーカップをそのしなやかな指から解放し、私に目線でやれ、と促す。




「ドラコ、どう?」

「ここはもうちょっと中指を――」



ドラコが後から顔を前に出して、私の手を直接握りながら教えてくれる。それはいい、まだ手を繋いだことはかなりあるから。だけど、後ろから顔を近付けているため、どうしても首元に彼のサラサラした髪や、吐息などが当たってしまうので、正直緊張で気が動転しそうだ。

キスなんか片手で数えるくらいしかした事がないんだ、仕方ないじゃないか。私は平静を保とうと紅茶を置いてフィナンシェを取ろうとすると、ドラコが不意に動いたため、誤ってきつね色に焼けたそれを落としてしまった。



「あー…せっかくのフィナンシェが…」

「まあそれはいい、まだあるからな。それより、」

「ん?」

「名前、何で落としたんだ?」



もうすべて分かっているとでも言うようににやにやと口元を緩ませているドラコに腹立たしくなる。私がそ、それは、とか何とか返答に困っているうちに、彼の顔が近づいてきて、お互いの顔が五センチ程の距離で一旦止まった。

今、自分でも顔が赤くなっているのが分かる。こんな甘い雰囲気を感じ取り、自然と瞼を下ろす。ドラコの息遣いが耳に当たり、ぞくぞくする自分が、おかしくなってしまったんじゃないかと思えた。

ちゅ、とゆっくり合わさる唇。ドラコが少し動いて私の上唇をはめば、またぞくり、とした感覚に襲われる。だが、まだ解放してくれる気は無いようだ。角度を何度も何度も変え、キスをするので、唇の感触を覚えてしまいそうだ。ぺろり、と私の唇を撫でる彼の舌に耐え切れず、息継ぎをしようと薄く唇を開けた。




− − − − −



「さっきからずっとニヤニヤしたり、固まったり、僕のガールフレンドは何の夢を見ているんだ?」



昼下がり、談話室のソファーで自分の彼女が眠りこけていたので、端の方に腰を掛け観察していたのだが中々に面白い。夢の中でも変わらない百面相につい笑ってしまう。

どうせ彼女の事だから百味ビーンズの変な味ばかりを食べる夢とかそんな物を見ているのだろう。そっと可愛い寝顔で眠る彼女の唇に口づけを落として、ドラコは自室へと歩き出した。




もちこから相互記念にいただきました!理想のドラコすぎて呼吸が困難・・・ほんとにありがとー!!
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