「話がある」
そう言って昼休みに日吉を屋上に呼び出した。学年が違う私達は付き合っているからと言って校内で接触する機会は部活くらいしかない。だからこういうのは本当に珍しい。
「どうしたんですか改まって。先週のテストの結果が悲惨すぎて慰めて欲しかったんですか?」
「ちがっ・・・いや違わないけどそうじゃなくて」
「強がったって意味無いですよ」
日吉はいつものようにフンッと鼻で笑った。私を小馬鹿にするように不敵に。でもそれは彼なりのコミュニケーションだ。二年も見てれば分かる。ずっとずっと見てたんだから。
これからも、見ていたかった。
「来月・・・引っ越し、するの・・・」
「、え」
空気がピリッと固まった。日吉は一瞬大きく目を見開いた。その僅かな揺らぎにも心が傷んで涙が溢れそうになる。堪えきれずに俯いた。
「お、親の転勤で」
「・・・どこに」
「九州・・・」
日吉の肩がピクッとしたのが分かった。
遠すぎる。
関東でも、ましてや本州でもない。学生が気軽に会いに行ける距離ではない。
顔を上げられずにいるといきなり日吉に両肩を掴まれた。強い力。正面には下から見上げるような日吉の視線がある。ゾクリとする程鋭い。
「、どうしても先輩も行かなきゃならないんですか!?下宿するとか、色々・・・」
「ダメなの。両親は共働きなのに妹がまだ小学二年生で、私がいないと・・・」
「・・・」
日吉も目を伏せた。
ピリピリするような沈黙が流れた。日吉の表情は見えない。何を考えているのか分からない。
何を、 考えているの?
悩み続けたことがあった。言うか、言わないか。自分の気持ちに嘘をつくのか。
だけど日吉にはいつも悩まないで真っ直ぐでいて欲しい。凛として自分の道を歩んで欲しいから。
私は覚悟を決めた。
「それでね日吉、もし日吉がそうしたいならその・・・私とわ、」
ドガンッ
屋上が震えた気がした。そのくらいの衝撃を感じた。実際は日吉が近くの給水塔を思いっきり拳で殴ったのだけれど。
ビクッと肩をいからせた私をギロリと睨み付け、日吉は背を向けて屋上から出て行ってしまった。
残された私はその場に崩れ落ちた。
私、どうすればいいんだろう。