宵夢(日吉) | ナノ



「日吉、今日の夕方に神社の夏祭り行かない?花火がすごい綺麗らしいから!」
「いいですよ」
「えっ」
「・・・何ですか質問しておいて」


私は多分今相当間抜けな顔をしている。だってまさかオーケーしてくれるなんて思わなかった。付き合ってるというのに日吉とはここ最近一緒に帰ってもいない。何でも実家の道場の事で忙しいらしい。

日吉は読んでいる本から目を離さずに喋る。

「ちょうど叔父の家に引き取りにいかなきゃないものがあるんです。あの神社は叔父の家に近いので」
「・・・・・・」

ほらね。どうせ私のことなんか、ついで。

いやでもついでとは言ってもれっきとしたデートだ。さらに落ち込んでどうするの私・・・!せっかく日吉と久しぶりに二人でいられるチャンス、


「へーお前らあの夏祭り行くんだ?」
「岳人!」

その時、遅れて部室にやって来た岳人がひょこっと顔を出した。口をひん曲げてニヤリと笑っている。何か不吉な予感が・・・

岳人はくるりと後ろを向いた。

「おーい侑士!俺たちも夕方夏祭り行かね!?」
「は!?」
「なんや突然夏祭りて・・・どこであるん?」
「近くの神社!なあ、どうせなら亮とかも誘ってパーッと行こうぜ!」
「まあ暇やし構わへんけど」

いや構えよォォオ!!

キッと岳人を睨むと生意気にもあっかんべえをされた。殴りたい。冗談じゃない、せっかくの日吉とのデートが・・・!岳人アイツ自分に彼女いないからって!

頼みの綱の日吉は「はあ、勝手にしてください」と呟いた。ちょっとは空気読め!元々あまり関心が無いんだから仕方ないかもしれないけど。


・・・こんなはずじゃなかったのに。





「よし!次焼きトウモロコシ!」
「待て岳人、たこ焼きのが近いやろ」
「長太郎・・・?あ、いた!アイツすぐ見つかるから楽だよな」


団体行動なんか滅べばいい。

結局あのまま宍戸たちも来ることになってしまい、私のイライラは最高潮に達していた。ていうかノリがまるで遠足だ。それにさっきから食べ物しか買ってない。いい感じに日も暮れてきているというのに、私が当初計画していた甘い雰囲気は欠片も無かった。


「ちくしょう・・・!ってあれ、」

日吉?日吉がいない。四方八方を見渡しても人混みにそれらしき人影はない。何、アイツ挙げ句の果てにはぐれたの?うっそお!

「ちょっと待って、日吉がいない!」
「はあ?アイツどうせぼーっとしてたんだろ。携帯あんだし大丈夫だって」
「・・・死ね岳人!私帰る!」
「は!?おい!」


今までの溜まりに溜まった鬱憤がついに爆発した。私は一人で来た道を逆走始めた。みんなも日吉もバッカじゃないの!何よはぐれるって!小学生かよ!私のことそんなにどうでもいいのかよ!


走りに走って、不意に我に帰って立ち止まると周りは知らない人ばかりだった。私は独りだった。急に喉の奥から寂しさが襲ってきて、私はその場で顔をふせた。





「何て顔してるんですか」
「!」

頭上から聞きなれた、悔しいけれど大好きな声が降ってきた。りんご飴と綿菓子で両手を塞がれた日吉が呆れたみたいに眉を下げていた。

「・・・随分とお楽しみで」
「んな訳ないでしょう」
「言い訳ならいいから。さっさと食べたら?」
「・・・拗ねてるんですか?」


日吉はため息を一つ吐き、いきなり私の口にりんご飴を突っ込んだ。

「んごっ!」
「やっと二人っきりになったのに無粋なこと言わないで下さい」


えっ?

驚いて日吉を見た。日吉はフッと優しく笑い、私の口の端についた飴を親指で拭った。


「ひよし・・・?」
「せっかく驚かせようと思ったのに先輩は不貞腐れてるし」
「驚かせるって、りんご飴と綿菓子で・・・?」
「何か文句でも?」

ちょっとムスッとした日吉は私から目を逸らした。

「最近、一緒にいられてないって思ってたんで」
「・・・」
「夏祭りもすごく先輩と行きたかったですけど、それを口に出すくらいなら死んだ方がマシだと思ってました」
「・・・叔父さんの用事ってのは?」
「あれは本当ですけど今日はもうどうでも良かったんです。先輩との時間の方が大切ですから」
「!」
「それなのに向日先輩たちは付いて来るし。ムカつきましたけど、そのことを直接言うと子どもっぽいと思って。それくらい察して下さいよ」
「・・・わかんないよ」


分かるわけないじゃん。ばか、日吉の大バカ。アンタはただでさえひねくれた男なんだから。

私だって忙しそうにしてる日吉に遊びに行こうって言いにくかったんだよ。日吉が急にいなくなったのだって不安だった。


でも少し照れくさそうにしている日吉を見たら、さっきまでの怒りが嘘みたいにしぼんでいった。ああもう、何でこんなに好きなの。


「ああ先輩、聞いたんですけどもうすぐ花火があるそうですよ。早く見やすい高台に移動しないと」
「いいよ、ゆっくり行こう」
「え・・・でも」

キョトンとする日吉の腕をぎゅっと握って、肩の近くに顔を埋めた。

「ゆっくり行きたい。日吉の考え方がもっと知りたい。だって日吉、難しいんだもん」
「・・・・・・」


じゃあ、もっと色んなことを話しましょうか。日吉はそう言って笑った。





四万踏んでくださったまなみさまのリクエストでした。リクエストありがとうございました!
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